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辻山 栄子 著
「所得概念と会計測定」

(有限会社 森山書店 平成3年4月刊)


 近年における会計理論は、伝統的な所得(資本利益)計算アプロ−チと特に1960年代以降急速に進展してきた情報会計アプロ−チの2つの流れに分岐しながらも、その両者の枠組みについて必ずしも定着した理解が形成されるに至っているわけではない。本書は、このような「手詰まり状態」にある会計利益測定の問題を再検討しようとするものであり、その意味では財務会計領域の研究に属するものである。しかし、その論述の焦点は、むしろ初期アメリカ税法を素材とする課税所得計算の解明に充てられ、その関連領域として会計利益論の研究に立入り、しかも、それを租税判例の歴史的展開の中に跡づけて実証しようとする。その意味では課税所得計算領域の研究に属するものであり、むしろ、この側面にこそ著者の研究の関心が集約されているといってよい。
 
本書の内容は、次の3部から構成されている。

第1部は、経済学上の所得概念をストックの増加として捉え、これをさらに経済的現価概念と包括概念に分け、特にウインドフォ−ル(偶然利益)の扱いの差異を説く。
第2部は、経済的所得の会計的測定の特質が複式簿記機構を媒体とする所得原価主義会計に求められ、しかもその機能がフロ−計算にあることを指摘して、ストック計算を媒体とする経済的所得計算との乖離を明確にする。著者は、その乖離を古典的な資本維持論の差異に止めないで、新しい形相として評価益を含む「オフ・バランス」の問題にまで立ち入り、所得の「概念」論と「測定」論との乖離に関する2つの流れを吟味する。

 第3部は、初期アメリカ税法が所得概念を経済的包括概念に求めながら、計算構造としては現金主義から発生主義へというフロ−計算の方法をとったものとして把握した上で、マコンバ−事件等における「実現」概念の意味を、所得配分機能としてではなく、財産の分離を基準とする所得概念ル−ルとして位置付ける。さらに1940年代以降の判例の中に実現概念の所得測定ル−ルへの異質化の過程を実証しようとする。
 
アメリカにおける会計利益の計算原理の形成において初期所得税法判例が果たした役割を評価する研究は、必ずしも著者が初めてという訳ではない。しかしながら、現代会計理論の視点から初期アメリカ税法判例の葛藤を解明し、さらに会計利益計算の解明に回帰しようとする著者の意欲と視点は、きわめて新鮮であり、また、豊富な文献整理と鋭い論理構成は、会計、税法の双方の研究者に優れた示唆を与えるものとして高く評価されるものである。

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