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矢内 一好 著
「国際課税と租税条約」

(株式会社ぎょうせい 平成4年4月刊)


 経済活動の国際化に伴なって国際課税の問題は極めて重要なものとなり、特に最近は米国の移転価格税制に関する規則の改正やその執行の強化などの問題で我が国企業の関心も極めて高いものとなっている。そのため国際課税に関する著作は、昨今は比較的多くみられるようになった。しかしながらその多くは現状解説的なものであり、理論的な深みは今一つというものが多い。これは著者も「はしがき」において述ているように、一つには、国際課税という分野が非常に実務的色彩の強いもので、各国の税制が目まぐるしく変動するために、租税条約を含めて、国際的課税問題が常に前面に出て、企業等が当面する租税問題を解決するという方法あるいは外国税制の解釈等に関心が集まって居るためであろう。本書は、そのように「複雑化した課税問題を扱うについては、より一層の基礎的部分の研究が必要」という著者の問題意識から、モデル租税条約を中心として租税条約の歴史を検討している。また現在の租税条約が直面している問題である条約漁り(トリーティショッピング)と米国の国内後法優先主義の問題を論じ、今後の租税条約のあり方を論じている。
 
 モデル租税条約の歴史については、主要各国において所得課税制度に相違があり、また税率も引上げられるという情況のなかで、第一次大戦後、国際的な通商、投資を促進するための国際連盟の活動がまず検討される。その基礎研究委員会において国際間の所得配分原則ができ、これがさらに専門家会議により各国固有の税と調和させる施策が加えられて、1928年の国際連盟モデル条約の誕生となる。さらに30年代のメキシコ条約、40年代のロンドン条約、そして63年のOECDモデル条約、79年の国連モデル条約にと展開して行く、そうした流れが、国際間における課税権の配分と国際的二重課税の排除という基本原則の展開として検討される。そして二重課税排除の問題については、恒久的施設や代理人課税の問題、総合主義か帰属主義かという事業所得の範囲の問題および独立企業の原則という事業所得計算の問題などの展開を検討し、結論的にOECDモデル条約を個々の租税条約解釈の法源となるものとしている。
 
 租税条約の直面する問題としては、第三国の居住者が租税回避目的で租税条約を利用する条約漁り(トリーティショッピング)について米国における税法改正、租税条約改正による対応の流れを検討する。また米国における租税条約に対する国内後法優先主義より起る問題として、1980年外国人不動産投資法、86年支店利益法および89年非課税利子課税について検討し、最後に今後における租税条約のあり方として二国間だけでないマルティの情報交換の充実等を提唱している。
  本書は租税条約について、歴史的、理論的かつ現実的な研究を行なったものである。錯綜した国際課税問題に対して基本的指針を与えるものであり、現在の時代が求めていたものとして高く評価されるものである。

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