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水野 勝 著
「主税局長の千三百日−税制抜本改革への歩み−」

(財団法人大蔵財務協会 平成5年6月刊)


 本書は、抜本税制改革に向けての政府税制調査会の審議の開始(昭和60年9月20日)から始まり、消費税法の成立(昭和63年12月24日)に至る税制改革の経緯の克明な記録である。著者は、この間、一貫して大蔵省主税局長として事務方の責任者として税制改革の作業に携わっており、担当者自らが綴る回顧録は歴史の一こまを後世に伝える貴重な資料である。

 この税制改革が陽の目を見るまでの政策決定過程は、誠に複雑な経緯を辿っている。まず、所得税減税と売上税の創設を柱とする最初の改革法案は、昭和62年2月4日に国会に提出されたが、中曽根首相の公約違反を野党から攻められて審議未了、廃案となる。しかし、税制改革法案のうち、62年分の所得税減税とマル優の廃止の部分は、野党の減税要求をテコとして同年9月の臨時国会において成立する。政府与党はこの改正を抜本改革の前半として位置づけ、これを手がかりとして再起を目指し、昭和63年末に至って消費税法と所得税減税法が成立し、当初、廃案となった税制改革関連法案の大筋は、結局、2年がかりで実現した。

 本書では、クロノロジカルな事実の記述を縦糸とし、この間における大蔵省の戦略の策定上の工夫、国会における攻防、当時の首相をはじめ与党の税制担当者への働き掛け、国民や労組に対する広報活動などを横糸として記述し、後に抜本税制改革とよばれるに至った昭和62年から63年にかけての税制改革の政策決定過程が詳細に示されている。

 本書のもう一つの特色は、複雑な政治過程に巻き込まれた税法立案者としての著者の苦心が随所に披瀝されていることである。例えば、著者は、主税局長就任早々に、税制改革に取り組むに当たって留意すべきであると考えたことを次のように述べているが、これらはいずれも今後の税制改革の成否を占う上で参考になろう。
  1. 税制改革は大幅な既得権益の調整を伴うので、大幅な利害調整を進める上においては強力なリーダーシップが必要である。
  2. 税制改革は総選挙の大きな眼目、争点となりがちである。政治日程の間をうまく泳いで行かなければならない。
  3. 抜本的な税制改革であるから、改革案は社会の批判に耐えうるものでなければならず、専門的、学問的な次元で十分な時間をかけて研究した上で成案をうることが必要である。なお、本書の後半では、売上税廃案の経験を踏まえて、国民への広報活動の重要性が上記の留意事項に加えられている。
 著者は、平成5年に、本書のほかに次の二つの著作を上梓している。「租税法」(有斐閣刊)は主要税目の課税要件を中心に論述したものであり、また、「来しかた行くすえ」(ぎょうせい刊)は著者が主税局長に就任するまでの30年間の記録である。本書は、これらとあわせて、約4半世紀にわたる著者の主税局勤務の体験に基づく昭和の後半期の税制史を構成する労作である。

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