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金子 宏 著
「所得概念の研究/所得課税の基礎理論・上巻」

(株式会社有斐閣 平成7年11月刊)
「課税単位及び譲渡所得の研究/所得課税の基礎理論・中巻」
(株式会社有斐閣 平成8年3月刊)
「所得課税の法と政策/所得課税の基礎理論・下巻」
(株式会社有斐閣 平成8年1月刊)


 「所得課税の基礎理論」に関する上中下3巻から成る本書は、著者がこれまでに発表した論文の集成である。各論文には、発表後の展開に応ずる補論・付記が加えられている。
『所得概念の研究』は、所得課税における最も重要な課題としての所得概念の構築について、ドイツ・アメリカの学説を中心として、経済的考察による包括所得概念の意義を論じ、その批判分析としてのビトカーの「包括的課税ベース論」とこれに対する反批判を紹介し、消費型所得税(支出税)を批判的に分析する論述が中核を構成している。さらに、個別問題として、株式配当の実現認識に関するアメリカ税制の経緯およびわが国商法における問題を論議し、未実現課税の選択は政策論であるとする。加えて、利子課税に関して包括課税の立場からグリーン・カード制論議の経緯を論ずる。また、所得の実現認識に関して、いわゆる権利確定主義の意義を整理し、管理支配基準の補足を提唱する。最後に、所得概念に密接する問題として、アメリカ・サリバン事件における「自己負罪特権」およびアメリカ税務調査における質問検査権に係る判例研究等を整理する。

 『課税単位及び譲渡所得の研究』は、課税単位および譲渡所得に関する論文である。課税単位が戦前の「家」から「個人」に転化したことは必ずしも進歩を示さないとし、アメリカの2分2乗制度や、欧州諸国の諸制度を歴史的、社会的に検討し、わが国においても夫婦・家族単位に立つ二重税率表の採用を提唱し、併せてビトカーの課税単位論文を詳細に紹介して家族単位課税の意味を明らかにする。譲渡所得に関しては、所得概念の延長線上の重要な課題として、キャピタル・ゲイン実現課税の問題と未実現課税の問題、アメリカ譲渡利得課税の研究をベースとする二重利得法の提案、取得費概念、土地税制論を展開する。

 『所得課税の法と政策』は、シャウプ勧告から昭和63年抜本税制改革までの所得税改革の本質分析、納税者番号制度、移転価格税制に関する歳入法482条わが国措置法制度の論点等を整理し、最後に法人税と所得税の関連に関する著者の昭和49年の法人独立課税説から平成3年インピュテーション説への転換を論述する。

 全3巻を通ずる著者の膨大な論文集成を流れる特質の一つは、主としてアメリカ税制に関する判例学説の緻密な研究に裏付けされた包括所得課税の立場が一貫されていることである。論述は、主張を異にする多くの論説の丹念な整理紹介と著者の豊かな教養に支えられて、客観的な説得力に富んでいる。また、研究の方法は、常に経済学的所得観と対比しながら法律概念を構築しようとするものであり、伝統的な法学解釈論の水準を超えた新鮮な論述を展開して、現実社会における法政策としての高い水準の視点を提供してきたものである。長い年月にわたり発表された論文の集積であるが、長期の視野にわたる研究の幅広さに加えて、その後の環境変動に応ずる的確な補論または付記が施されることにより、現代における所得課税の総合的な研究文献としても貴重な価値を有するものである。

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