公益財団法人租税資料館

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芝池 義一・田中 治・岡村 忠生編
「租税行政と権利保護」

(株式会社ミネルヴァ書房 平成7年12月刊)


 本書は、清永敬次教授の還暦を祝賀して出版されたもので、税法学、憲法学、行政法学の領域に属している研究者による12の論考が収められている。

 本書の第一の特徴は、税法学、憲法学、行政法学の共同研究の書物であり、相互に対話を試みているということである。総論的な論考として、芝池義一「税法と行政法」は、税法理論における課税処分=確認行為論等について、行政法の観点から重要な問題提起を行っている。田中治「租税行政の特質論と租税救済」は、租税行政の特質論が果たしている役割を検討し、権利論からする制約が必要だと述べる。佐藤幸治「職業選択の自由規制と司法審査」は、酒類販売免許制度に関する最高裁判決を素材に、職業選択の自由に対する規制のあり方を論じる。

 本書の第二の特徴は、租税行政手続および租税争訟手続を共通の検討対象としていることである。納税者の権利保護の観点からみて、納税義務の確定と履行の過程をどのように捉えるのか(税務調査のあり方、課税処分の理由附記の要否、源泉徴収の法的性格など)、租税争訟手続をどのように整備すべきか(審理の対象、主張責任・証明責任、訴訟類型論など)等が主な論点である。
この論点に関し、谷口勢津夫「納税義務の確定の法理」は、申告納税制度の構造を分析し、更正の請求等に関して、実体的真実主義を可能な限り推し進めることを提言する。曽和俊文「質問検査権をめぐる紛争と法」は、税務調査をめぐる裁判例を検討するとともに、調査対象の選択裁量の統制等について詳細に検討を加える。久保茂樹「納税者の手続的権利と理由附記」は、理由附記に関する判例法理を検討し、取消訴訟における処分理由の差替えは制限されるべきであると主張する。浦東久男「推計課税の理論」は、課税処分としての推計課税の議論と、訴訟における攻撃防御の手段としての課税標準等の推計の議論とを明確に区別すべきであると説く。岡村周一「納税者による不服申立てとその審理」は、不服申立ての審理手続、審理対象、決定・裁決をめぐる争点を整理、検討する。石島弘「納税者の救済と訴訟類型」は、租税に関する訴訟類型を包括的に取り上げ、各種訴訟の意義、対象等を詳細に論じる。小川正雄「租税訴訟における訴訟物」は、納税者の権利保護の観点からみて、訴訟物の考察については、争点主義を基礎とすべきであるとする。岡村忠生「税務訴訟における主張と立証」は、非正常取引を念頭に、税務訴訟における主要事実、証明、主張制限について論じる。清永敬次「給与所得をめぐる課税上の法律関係」は、源泉徴収制度における法律関係を体系的に整理し、給与所得者は確定申告によって源泉徴収過誤納金の還付を請求しうる等を主張する。

 本書は、租税行政の適法性と合理性を確保し、納税者の権利保護を図る観点に立って、納税義務の確定と履行の過程をどのように捉えるか、租税争訟手続をどのように整備すべきかなどについて、法制度・学説・裁判例を検討し、解釈論上、立法論上の新たな理論の提示を試みている。その特徴は、租税行政手続および租税争訟手続を共通の検討対象としたこと、および租税法学者のみならず、憲法学者、行政法学者が共同研究に加わっていることである。後者との関連において、租税行政の特殊性を主張することにより、納税者の権利や利益はどのような影響を受けるのか、行政法学が提供する行政法理論は租税行政の領域でどのように、どの程度まで妥当すべきかなどについて、本書は意欲的に問題を提起している。
全体として、租税事件をめぐる裁判規範の合理的な形成と、納税者の権利保護に役立つ租税救済手続の確立に寄与するものということができる。本書は、租税事件をめぐる裁判規範の合理的な形成に貢献し、さらには、租税行政の法的統制の方向づけとその手法を具体的に提示しようとしている者であり、このような試みが成功している理由は、同じ学派の執筆者が共同研究として綿密な打ち合わせを行い、慎重に計画を進めたことに求められるであろう。

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