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関野泰子 稿
「相続税・贈与税の課税管轄をめぐる諸問題−財産の所在の判定を中心として−」

(税務大学校論叢第25号 平成7年5月刊)


 本稿は、国際的経済活動が個人レベルでも増大しつつあり、海外在留邦人の増加や財産運用の国際化がみられ、また制限納税義務者の課税制度を利用した相続税・贈与税の租税回避行為も現れてきている今日、その課税範囲をめぐる研究が必要とされているとの認識から、特に「財産の所在」の判定基準を規定している相続税法第10条に焦点をあてて、相続税・贈与税についての国際的課税管轄について幅広く、かつ歴史的に考察した論文である。

 まず序論において、このような問題提起と相続税法第10条の位置付けについて基本的設例として、贈与財産が日本にある場合、受贈者、贈与者がそれぞれ国内・国外に居住しているときの組合わせによる課税関係を分析し、財産の所在の判定いかんによって国際的二重課税や国際的無課税の発生があるとしている。そして第二章で同法第10条が規定する相続税等の課税範囲の基礎概念としての課税管轄権の検討に及び、国際法の流れが単純な属地主義から実質関連性を重視する方向にあるとし、その歴史的展開を所得課税の課税管轄の沿革とあわせながら検討を加えている。2つの論述で考えさせられることが多い。現在われわれは複式簿記により算出される抽象的な所得概念になじんでいるが、もともとは物的な財産の存在から所得を把握し、所得課税が行われていたのであり、いわば所得課税と資産課税の未分離の歴史的段階があったはずである。その課税のメルクマールとしての「財産の所在」ということは、所得課税、財産課税(相続税・贈与税)の原点の問題である。本稿ではその財産の所在の判定の要件を重視しつつ、所得課税における課税管轄についての概念の歴史的発展を詳しく検討し、それに対応した相続課税の展開を論じている。筆者は、「経済学者報告」、モデル条約および個別の条約をふくめた租税条約の流れと各国国内法における課税権配分の考え方を検討し、被相続人自身の居住の要素を全く考慮しない我が国の課税権配分の考え方に疑問があるとし、「経済的帰属」の視点に裏打ちされた実質関連原則による財産の所在の判定も必要であると考えている。

 以上の検討を踏まえ、第三章において財産の所在につき、わが国の相続税法に関して不動産、動産についてはその物理的所在地、債権については債務者主義により、その他の財産については債権者主義を出発点として財産の種類に応じた個別規定を設けるという経緯をみたあと、国際私法における財産の所在の促え方をコモンロー諸国における民事訴訟上の原則の展開および米国における課税上の判例の変遷などより検討し、各国における具体的な判定の仕方を述べている。第四章のまとめにおいて、「経済的帰属」概念の重視を説き、無制限納税義務者の決定基準としてわが国が採用している受益者住所地主義よりも被相続人等住所地主義の方が合理的と思われること、「人の所在」による課税権配分の原則には限界があることを論じ、財産の所在の判定についてもわが国の債権者主義の持つ意味および相続税法第10条の具体的な問題点を論じている。

 筆者は財産を信託した後で相続が開始した場合に「財産の所在」をどう判定するかという納税者からの質問が本論文を執筆するきっかけであったと本論文の終りに述べているが、筆者自身の解読による外国文献を含めた広い範囲の文献資料をもととしており、翻訳書に依存している場合においても出典引用を明示するなど、論文作成のルールに忠実であり、簡潔な文章により社会科学研究として的確な論述を展開している。特に財産の所在を判断基準の中心として国際的課税管轄について歴史的国際的に論じた本論文は、わが国の国際相続税法の基礎研究として高く評価され、かつ、今後の研究の発展がさらに期待されるものである。
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