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加藤 淳子 著
「税制改革と官僚制」

(財団法人東京大学出版会 平成9年2月刊)


 本書の主要な目的は、官僚組織論の立場から日本の官僚制を分析するとともに、1989年の消費税導入に至る政治過程を自民党と大蔵省の関係を軸に再検証し、自民党一党優位体制崩壊後の税制改革の過程とを比較することにある。

 本書は、1955年から93年まで続いた自民党一党優位体制下の大蔵省に焦点をあて、政策専門性の高い租税政策の分野において、官僚が、政策知識を独占することによってではなく、それを一部与党議員と共有することによって、政策決定へ影響力を行使したと主張する。これは、政策知識の独占と専門知識の保持により官僚が政策へ影響を与えると考える官僚制論とも、また1980年代以降の政策に詳しい族議員の登場により、自民党が官僚の政策決定への影響を弱めてきたとする日本政治研究における通説とも異なる。

 1989年の消費税の導入は、先進国においては、数少ない例である1980年代以降の付加価値税導入の試みである。大平政権下で一般消費税として、中曽根政権下に売上税として提案され、竹下政権下で消費税として導入された、付加価値税は、ヨーロッパ諸国への導入とともに、1970年代初頭から、日本の政策当事者にも注目されていた。1970年代末、大蔵省は、石油危機後の赤字財政の対応として一般消費税導入を考え、大平首相に支持され提案に至るが、世論・野党のみならず、自民党内からも反対され失敗に終わる。財務当局の増税による赤字財政への対応に端を発した1980年代前半の行政改革期、大蔵省は、シーリングによる支出削減により、世論には財政危機を、自民党リーダーには新たな財源の必要性を印象づける。それとともに、この間行われた財源補填のための法人税増税は、経済団体に付加価値税に注意を向けさせる結果となった。世論の変化を踏まえ、自民党リーダーと経済団体の支持によって、1980年代中葉に売上税が提案されるが、これは、中曽根首相の選挙公約に対する世論の反発と利益集団の免税措置要求による混乱により失敗に終わる。1989年、竹下政権下で、高齢化社会における福祉財源という新しい名目のもとに、消費税は導入されるが、その不人気は、消費税導入とほぼ時を同じくして政治問題化したリクルート事件とあいまって、同年夏の参院選において、自民党が過半数割れを喫する一因となった。

 本書は、この税制改革を大蔵省が、一貫して安定財源を追求する過程としてとらえる。自民党リーダーの付加価値税への賛成は、政策専門知識の保持が党内の評判・影響力行使に重要性を増してきた長期政権党の党内事情があった。こうしたリーダーの行動は当然のことながら、選挙基盤の弱い陣笠議員の反発を生む。政治改革の際にも、同様な対立が存在し、それが1993年の自民党分裂につながっていた。地方消費税の導入を軸とする1994年の連立政権下の税制改革も、本書では、大蔵省の影響力の後退の結果ととらえる。与党議員がリーダーを含め、官僚と政策決定において協力する動機を失ったからである。これは、政党政治家の政策知識の減退を官僚の影響力増大に結びつける、従来の政官関係に対する見方をさらに否定している。

 1980年代以降、わが国でも、政策決定過程の実証的研究が行われるようになったが、消費税の導入に至るまでの4半世紀の税制改革の政治過程の実証分析である本書は、この分野の最初の本格的な研究書であり、とくに、各時代の経済、政治、社会の諸情勢の丹念な記述は高く評価できる。本書が、わが国税制の歴史研究、また広く租税に関する政策分野における研究に貢献することは、きわめて大きいものがある。

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