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小西 砂千夫 著
「日本の税制改革−最適課税論によるアプローチ−」

(株式会社有斐閣 平成9年6月刊)


 本書は、日本の税制を、欧米において盛んに議論されている課税最適論(理論経済学をベースとして、資源配分に与える税の攪乱効果を最小にするという立場、及び高所得者から低所得者への所得移転が社会的厚生水準を引き上げるという立場から、最も望ましい税制を探求する理論)によりながら、現状を分析し、そこから政策提言を行おうとする意図の下に書かれている。  かかる最適課税論は、日本の税制のもつ構造的問題、あるいは、その前提たる社会制度と矛盾することもある。そこで、本書では、最適課税論の理論的枠組みが日本においてそのままあてはまるとみなして分析した部分と、日本的状況に応じて最適課税論を修正して分析した部分との両者からなっている。また、最適課税論を、財政学の中の伝統的租税論と対比させ、租税論としてみたときの最適課税論の位置付けを試みている。

 具体的には、伝統的租税論、特に包括的所得税論では、最善の課税ベースである所得だけに課税することが望ましいとの立場をとるとし、一般消費税を導入することが本来の所得税の姿を取り戻すことに役立つならば望ましいとしている。さらに、最適課税論からの消費税に対する考え方には、一般消費税導入を正当化できるのは最適課税論だけであるという見解もあることを詳解しながら、同見解は最適課税論と整合性がとれないと批判する。その理由は、効用ベースで負担のあり方を考える最適課税論ではライフ・ステージにおいて最も所得が高くなる時期に負担が大きくなることは税負担のロスの合計を少なくするので、むしろ肯定されるべきことになるのではないか等批判しており、最適課税論の限界を示唆している。

 次に、最適課税論の功罪について、「功」の役割としては税制改革の議論のなかに、課税の経済効果の概念を体系的に持ち込み、税制の変化の評価を税額や手取り所得の変化ではなく、厚生水準の変化によって判断する考え方と手法を確立した部分である。また、「罪」の役割としては税務行政上の理由から実行できない税制改革を提言、例えばクロヨンとよばれる業種間の補足率格差について脱税に対する罰則強化により可能とする提言等を行っている点をあげている。また、労働供給に係る税に対する感応度についての同理論による限界をあげている。このように、最適課税論は現実適応性がないとの批判を受けているが、その理由は最適課税論のフレームによるのではなく、最適課税論の理論構成をわが国の税制の問題に対応できるよう柔軟に組み替える努力が必要であるとし、いくつかの試論を提供している。

 本書は、税制上の具体的な問題への適用を含めて最適課税論を包括的に論じたものとしては初めての試みといって良く、その優れた研究内容は高く評価できる。

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