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篠原 正博 著
「不動産税制の国際比較分析」

(株式会社清文社 平成11年7月刊)


 本書は、土地や建物に対する我が国の税制のあり方を国際比較の視点から分析し研究したものであるが、これまで多く見られた「地域研究」的な、単なる制度や歴史の紹介ではなく、「一歩踏み込んで、国際比較を通してわが国の制度的特徴をあきらかに」し、「海外での議論がわが国の政策に与えるインプリケーションを明らかに」することを目途として著されたものであり、しかもわが国の今後の問題として所得税、消費税の増税という形での税制改革が見込まれる中で、如何にして税制の累進性を確保するかという観点から資産課税の強化が必要であるとの論点に立って、国際比較、分析を行った著書である。

 まず第1章ではわが国と状況が似通っているフランスの租税委員会がまとめた不動産課税の現状と問題点の報告をもとに、フランスとの比較においてわが国の不動産税制の構造の特色を検討している。即ち、資産保有税と資産移転税の両面において我が国と類似の構造を持つフランスは相続・贈与税、有償譲渡課税の比率が高く、税制が複雑である点もわが国と似ていることを前提として、まず都市不動産の価格動向をみたあと、税制の概要を、その取得(有償・無償を含む。)に係る税、保有に係る税および譲渡に係る税に区分してその課税状況とその課税の経済に与える影響を検討し、フランスでは、その取得に係る税では付加価値税が高くキャピタルゲイン税は軽いと分析している。そして不動産取引の活性化のためにはキャピタルゲイン課税の見直しが有効であり、また金融資産との比較における差異は両者を綜合的に均衡のとれたものにすることが必要であると提言している。

 第2章では不動産の課税標準の概念を分析し、賃貸価格によっている国(イギリス、フランス)、資本価値によっている国(アメリカ、カナダ)、および敷地価格によっている国(オーストラリア)の例をみて各国の議論を整理し、地租改正以来のわが国の議論をふりかえり、結局、今後の在り方としては、その採用が多くなりつつある資本価値がわが国の固定資産税の課税標準としても最も望ましく、賃貸価格によることは問題があると提言している。

 第3章は不動産の流通に対する課税について、わが国の場合はイギリスやドイツより税収の弾性値(伸張性)は低いと概観し、その課税根拠について能力説からは充分の根拠は与えられず印紙税等との二重課税が行われているとし、印紙税等の廃止を提案している。第4章においては建物、特に居住用不動産に対して消費税を課すことに中立性の阻害があると論じ、さらに第5章地価税では所得税の補完税として捉えることも可能であるが、基本的には実質的富裕税の一種と言えるとして、居住用土地も含めて課税を維持すべきであると論じている。第6章以下は、フランス、オーストラリアとカナダとの税制比較を行ない、82年の社会党政権期に始められた富裕税(大規模資産税)の導入経緯、一たん廃止後、財産連帯税という形での復活などのフランスの流れとそれに伴なう議論を検討し、富裕税の在り方として課税ベースは広く、税率は簡素にすることが望ましい、としている。オーストラリア、カナダについては相続税廃止の経緯を検討し、資産移転課税が支持されているためには資産格差に対して国民が敏感であること、中小企業者や農家の強い反対がないことが必要であるとして、わが国としては資産課税は税制の累進性確保のためにも強化が必要であると結んでいる。
 本論の内容に基本テーマからの分析、検討が今少し欲しいとか、税制の累進性の必要性の根拠の論及などの問題はあるものの、これ迄のわが国の不動産税制の研究は統計を踏まえた実証的な国際比較、検討をした研究書が少ないとき、本書が統計資料を数多く用いて不動産税制の国際比較研究をしていることも大きな功績があるものと考えられる。
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