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佐藤 英明 著
「信託と課税」

(株式会社 弘文堂 平成12年5月刊)


 著者は、金融商品としての機能と個人の資産管理手法としての機能をもつ信託について現在進行している規制緩和の流れの下で、この二つの機能に応じた新たな税制が設けられるべきとの考えのもとに、アメリカにおける制度との比較などからの立法論的検討と信託課税に関わる周辺問題を詳細に検討し、今後の投資信託税制についてのあり方などをきめ細かな分析により明らかにしている。

 本書の第1部第1章ではアメリカにおいては所得課税に関して「法人」乃至「団体」では利益を獲得した法人段階とその利益の分配を受けた者とでの二重の課税をうけるのに対して、信託は委託者課税のみなので信託が有利になるということ、及びパートナーシップ課税という制度があることから、「団体」及びパートナーシップと信託の区分という議論が信託課税をめぐる主たる論点として展開してきたと述べ、その区分の基本はその「事業目的」によるとし、特に信託条項の内容が重視され、判例、通達でみられる基準を投資資産、不動産、事業資産などの信託財産の内容に応じて検討している。第2章ではアメリカの信託税制の概要が説明され、原則的には信託収益について受託者に課税されるが、財産の元本の移転は贈与税、遺産税の対象となるので、元本の分配と収益の分配のルールや信託の分割などによる租税回避行為の規制が説明されている。また、信託収益のうち未分配の部分、つまり留保収益課税についてそれが後日分配された時の税額再計算のルールなど、原則的な信託課税の仕組みの説明がなされた後、高額所得者などが高い累進課税を回避するために信託制度を利用することを規制する特例としての委託者課税信託についての説明を、初期からあった撤回可能信託等とClifford事件判決に由来する課税信託に分けて試みている。併せて特例として法人税の課税対象とされる規制的投資会杜(RIC)と不動産投資信託(REIT)および法人税課税の対象から外されるREMICやFASITの説明がされている。第3章においては我が国の信託課税について、特に個別信託を除いて、投資信託のような集合的信託の課税問題を検討している。まず公杜債投資信託および一般証券のほか投資信託、合同運用信託および特定株式投資の課税信託についての課税状況についてみたあと、我が国には法人、個人を通じた統一的な「投資信託税制」は無く、そのため例えば損失を生じた場合の扱いは法人か個人かで異なっている。今後の金融自由化で例えば不動産投信が証券投信と同じ仕組みで立法化されると、その収益分配は不動産所得とされ損益通算が可能となるなどの問題が生じることから、一般的な投資信託税制の立法が必要であるとし、その場合、アメリカの税制を参考としつつ考察し、投信収益は全部、投資家に分配することを条件に法人課税の対象としないこと、投信からの分配収益は所得税法上は特別のカテゴリーの所得とする(ただし、その損失の損益通算には制限を設けること)を提案している。次いで第4章で個別的信託について信託留保収益に対する課税についての提案をしている。

 第2部では外国の投信の課税問題、長期にわたる離婚財産分与についての課税についてアメリカ法制との比較検討および他益信託の課税問題の検討など、現行信託課税において他益信託のもつ「設定時課税」「導管理論」の限界、「信託受益権の評価」に係わる問題点等を明らかにされている。

 本書は、我が国では簡単な規定しかない信託課税について、アメリカの税制を入念に検討し、特殊分野で、かつ、金融自由化時代における投資信託の複雑・多様化を念頭において明解に分析して、新しい立法を提案するなど時代的意義を有する類書をみないものである。

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