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神野 直彦 著
「財政学」

(株式会社 有斐闇 平成14年11月刊)
 

 本書は、伝統的な財政学のテキストブックとしてまとめたものであると著者は自ら述べているが、内容的には教科書という通常のイメージを超えた著者の抱く独自の理論が展開されており、まさに財政学の歴史と理論との織りなすストーリーを構成しているかに見える優れた作品である。

 本書の基本的立場は、財政を貨幣現象を意味するものとして捉え、しかも公的貨幣現象として、したがって政府に関係した貨幣現象を指し示すものとして把握し、財政は市場メカニズムによってではなく、政治過程で決定されるものとして特徴づけるのである。

 著者は、公共経済学と称される新たな経済学の流れを批判的に眺めながら、伝統的な財政の枠組みを重視する立場を堅持し、さらに、注目すべき記述は財政を経済システム、政治システムおよび社会システムという三つのサブシステムに調整し、一つのトータルシステムとしての社会に統合する媒介環が財政であると規定するのである。

 このような三つのサブシステムが財政を媒介環として収斂する過程の説明は、著者独自のものであり、本書の圧巻とも称すべき箇所であるといえる。その意味で、単なる財政の仕組みの解説というよりは、現代社会の成り立ちを財政という視角から説明した哲学の書でもある。

 著者は、財政学の生成がカメラル学として成立する過程と古典派経済学として成立する過程とをドラマチックに描きながら、続いてケインズのフィスカル・ポリシーの支配する財政学への展開の過程を克明に描写する。さらに現代財政学の主流派となる公共経済学の成立と現状を考察した後、財政学を単に経済学、政治学、社会学という社会科学の個別領域からアプローチするのではなく、境界領域の「総合社会学」として固有の学問領域を形成しなければならないとして、あるべき財政の未来を占っている。

 かかる財政学の総論に当たる部分で明確になったことは、財政現象を経済と政治と社会の交錯現象として捉え、絶えず歴史の流れの中での理論を問題にするという歴史学派の立場が堅持されているということである。この点で、著者の財政学に対する取組の姿勢が鮮明に描き出されている。類書にみられない本作品の特色として評価したい。

 以下、各論として、予算の問題、租税の問題、経費論という伝統的な財政プロパーの問題が扱われ、続いて地方財政と中央財政等の複数の財政主体間の関わりが取り上げられている。

 これら各論の各章での内容は、永年に亘り著者の思考の基底に蓄積し成熟した蒸留物を著者の優れた筆致で描き出しているところに、分かりやすい中に内容の実が張りつめられ、読者に伝わってくる。それぞれの概念定義や説明のアプローチに著者独自の表現による説明が何のてらいもなく説得的に敷衍されている。著者ならではの作品である。

 このように、本書は、財政学に対する著者の並々ならぬ情熱を感じさせる作品であり、財政学に対する方法論とその具体的な内容が包括的に扱われており、これまでの類書にない特色を備えている作品であると評価された。

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