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諸富 徹 稿
「金融のグローバル化とトービン税」

(現代思想 第30巻第15号 平成14年12月刊)


 本論文は、国際的通貨移動に対する何らかの規制のための政策手段としての意義をもつトービン税を取り上げ、その成立段階においてもつ意義から説き起こし、その論点を多面的にかつ綿密に整理した上で、その現代的意義を評価し、グローバル・ガバナンスのあり方を問うものとして意味づけた作品としての特質を備えている。

 トービン税はもともと国際的な通貨取引に対して課される税のことであり、投機的な通貨取引に課税することで、本来、通貨価値の安定化に貢献する政策手段としての意義をもっているが、他面、低い税率で多額の税収が期待できるため、この後者の側面に注目が集まるようになった。

 著者は、金融不安定性がなぜ発生するのかをケインズ理論を手がかりに究明し、限定的な情報の下で将来を極めて不確実にしか予測できない場合、長期投資よりも、いつでも変更可能で「流動的な」短期投資に資金を振り向けることによってリスクを回避しようとする。こうして不確実性が存在する下では、投資家は短期投資、あるいは「流動的な」投資対象を選考することになり、その結果、市場における資金の流れは変動性を高め、金融市場の不安定性が増大することになる。そこで、ケインズは実行可能な方策として証券取引に対する課税を提案しているが、それがトービン税のアイディアを生む源泉となったと著者は指摘している。

 続いて、著者は「金融自由化」が実物経済に与えた影響や「金融グローバル化」を促した要因について考察した後、国際的資本移動に対する弊害を制御する有力な手段としてトービン税を挙げ、その成り立つ根拠を取り上げるのである。

 著者はトービン税を政策課税として捉えた場合、環境税にかかる租税論上の根拠を援用し、短期的な資本移動がもたらす外部不経済を内部化する政策手段として根拠づけることができるとする。

 ただ、このような根拠づけは一面的であって、トービン税が財源調達手段としての副次的な機能をもちうることから、かかる側面を顧慮した場合における課税の根拠として、「社会的共通資本」の概念を使って根拠づけを図る必要があるとする。すなわち、トービン税は、破壊的な投機取引を課税によって抑制することで、社会的資本の一つである制度資本としての国際通貨のシステムを安定的に維持管理するための政策手段であると規定できると主張する。

 しかし、かかる根拠づけによって正当化されたトービン税ではあるが、国際的協調のもとで一斉に導入しなければならないため、政治的にみて極めて困難性を伴う等、その実施に際しては、さまざまな問題を伴う。

 さらに、トービン税によって通貨取引の費用を引き上げることが、その変動性の抑制につながるとする論拠に対して、逆に、却って変動制の増大を招くといった批判がある。そのため、トービン税の再設計を試み、「二段階トーピン税」なる考え方があることを挙げる。これは低率による基礎税率部分と、通貨価値の変動性が増大した場合に発動される「為替正常化課徴金」の二つからなる税金であり、課税ベースは同一である。著者はかかる考え方を検討した上で、為替正常化課徴金は投機取引とリスク回避行動をうまく区別して投機取引のみを抑制するための洗練された武器となるであろうと結論している。

 最後に、トービン税は国家主権を超える枠組みで導入・実施される「グローバル課税」としての性質をもつことになるが、グローバル課税の使途について市民による直接的なコントロールが可能となる。かかる意味でのトービン税の税収管理とその使途の決定に正当性を付与するためには、国家代表からなる協議体だけではなく、選挙により直接選出された代表により議会を創出することが必要となるというのである。このような意味で、グローバル・ガバナンスのあり方を問うことにもなる。

 著者は、税収の管理を担当する国際機関の意思決定機構を根本的に変革し、国際機関における意思決定過程のより一層の透明化と民主化につながることが、トービンの想定よりも遥かに革命的なこととなると結んでいる。

 従来から取り上げられてきたトービン税のもつ意義とその作用を整理体系化して、極めて明快に論を進めている。その論の進める過程では、そこで何が問題なのかを浮き彫りにしつつ、議論の総合化が図られている。

 このように、本論文は、文献的取扱いにおいて従来の諸説を確実に捉えており、さらに関連領域の議論を引用する形で、論点の整理が図られている。論旨が一貫していると同時に、結論部分が単なる理論の問題としてではなく、政策的側面から、さらに進んで国際的政治課題にまで論を進め、トービンの思考を乗り越え、グローバル・ガバナンスという新たな観点からその意味づけを図った点は、高く評価された。

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