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M田 明子 稿
「移転価格課税における所得移転の基準」

(税務大学校論叢 第42号 2003年6月刊)


 本論文は、移転価格課税の基準となる独立企業間価格の算定方法について、米国の裁判例を中心に詳細な分析を行い、米国における所得移転の基準の変遷をフォーローし、併せて、無形資産の介在する取引から生ずる所得についての移転価格課税は、ストックの移転に対して、取引における価格というフローの形式で課税する部分があり、ストック課税の視点からのアプローチが必要であるとする著者の試論を展開している。

 第2章「米国の移転価格課税における所得移転の基準」では、Avi−Yonah(1995)の論文を下敷きとして、米国の裁判所の諸判決に基づいて、所得の再配分を行うべき基準の変遷を時間軸にそって詳細に紹介する。

 著者によれば、近年の利益分割を採用する事例の出現は移転価格における機能の重視のあらわれであり、その背景には、多国籍企業の特徴的な経済活動(費用の内部化や無形資産の内部だけでの実施)により、所得配分是正の基準となる納税者による第三者取引が存在しなくなり、移転の基準をどこに求めるかという問題が生じてきたからであるとされる。 

 米国の裁判例の分析では、まず、租税回避には合算課税で対処することとされ、移転価格をとりあげることなく、取引自体の公正性と合理性のみが問われた当初の事案(45年)から始まって、納税者と非関連者との間の取引を基準とする事案(59年、64年、65年、67年)、さらに非関連者の独立性を強く求める事案(70年、71年、74年)、第三者の行う非関連者取引を基準とする事案(73年、80年、89年)を経て、最近の利益分割による事案(83年、85年、87年)へと続く流れが明らかにされている。

 第3章「価格の連続性から生ずる問題」においては、多国籍企業の巨大化による超過収益は、機能の分析によっては切り取ることができない利益であり、所得移転の基準のあり方についての再検討を迫るものであると述べている。

 第4章「結びにかえて−経済的価値の移転とみなし譲渡」では、収益を実現主義による所得と時価評価による所得に二分することを提唱する。すなわち、前者は、会計上の当期利益であり、後者は、投資活動から生ずる将来のキャッシュ・フローの割引現在価値に基づく利益である。また、前者はフローから生ずる課税所得であるが、後者はフローの形式により、ストックの移転に対する課税を行う試みであるとしたうえで、このように考え方を整理することは、無形資産の介在から生ずる所得に対するわが国の移転価格課税の問題を考える場合には、とくに有益であるとしている。

 本論文の大部分を占める第2章は、米国の裁判例の詳細な紹介として評価できる。また、第4章は、ユニークな着想ではあるが、所得概念の基本に関わる問題であるので、より慎重な検討が望まれる。

論叢本文(税務大学校のホームページへリンク)(PDF)・・・・・・801KB


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