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並川 奈甫美 稿 (熊本学園大学大学院 院生)
「『生計を一にする親族』への対価支払の必要経費算入の可否」
 
―所得税法56条を中心に―
(熊本学園大学大学院 修士論文 平成17年3月)


 本論文は、所得税法56条に対して現在の社会情勢に適合した新たな解釈を試みた意欲的な作品である。所得税法56条は、生計を一にする親族への支払対価の必要経費算入に関する特例を定めたものであり、家族間の意図的な税負担の軽減を防止するために設けられた規定である。しかし、規定の制定から50年余りが経過し、当規定が想定していなかったような場合にまでもなお形式的に適用すべきなのかと問題提起されている。

 第1章では、従来の判決における解釈と東京地裁平成15年7月16日判決における解釈が比較検討されている。

 第2章では、「生計を一にする」ことの意義および「従事したことその他の事由」の意義が詳細に検討され、「生計を一にする」の解釈につき実費精算の基準等が不明確であることや、「従事したことその他の事由」の解釈が多義的であることなどが指摘されている。

 さらに、第3章では、所得税法56条の制定当初の目的や改正経緯について丹念に検討され、その立法当時には、親族が対等に独立した立場で専門的知識に基づく役務の提供を行うというようなことは想定されていなかったことが明らかにされている。また、実質課税の原則から、所得の帰属について規定している所得税法12条の基本通達12−5(親族間における事業主の判定)の規定が検討され、それを広義に解するか狭義に解するかにより結論が異なってくるものの、時代の流れに応じて柔軟な解釈が行われるべきものであるとされている。

 本論文の結論としては、所得税法12条で所得の帰属を認めながらも、所得税法56条で親族の収入として計上せず、事業主の必要経費の計上も否定することは理論的整合性を欠くものであるから、所得税法56条を限定的に解釈して親族間の対価支払いの必要経費性を認めるべきであると主張されている。

 以上のように、本論文では、所得税法56条の立法当初には、夫と妻が互いに独立した職業を行うことが想定されていなかったが、そうしたことがますます増加する現代では、所得税法56条と基本通達12−5はその解釈を柔軟にすべきであるとして、東京地裁判決が採用した所得税法56条解釈における限定説を基礎としながらも、基本通達12−5を援用して親族間取引に関して新たな解釈論が展開されている。

 本論文は、女性の社会進出が著しくなった時代状況に対応した新しい解釈を提起せんとする意欲溢れる作品であり、租税資料館奨励賞にふさわしいものと評価することができる。

論 文(PDF)・・・・・・2.12MB


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