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井手 英策 稿
現代的租税システムの構築とその挫折
 ―高橋財政期における租税政策の限界―
(会計検査研究第33号 平成18年3月刊)


 本稿は,高橋財政期に焦点をあて,現代的な租税システムの構想とその挫折の過程を検討することにより,システム転換期の租税政策(特に,長期停滞の脱出過程における税制改革)のあり方とその限界について,歴史的視点から分析した意欲作である。本稿の論旨は,次のように要約できる。

(1)高橋財政期というシステム転換期において,わが国では直接税中心主義,個人所得税の増徴からなる現代的な租税システムの構築が模索された。

(2)この財政健全化路線は増税批判のもとに一度は潰えたが,高橋蔵相後の藤井蔵相は健全財政主義のもとで各種の増税試案を作成した。この路線に対して,世論はこぞって反対したため,将来の増税の地ならしとして臨時利得税が提案されることとなった。

(3)高橋蔵相の再登場後,財政収支の均衡は論点から消え,負担の均衡が強調されることとなった。そのため,抜本的な税制改革は困難となり,現代的な租税システムの構想は挫折することとなった。

(4)このような高橋財政期にみられた現代的な租税システムの構想とその挫折のプロセスは,政治過程において増収策を実施することの難しさを端的に示すものである。

 本稿で展開された高橋財政期の租税政策の分析は,今日の財政健全化論議に次のような示唆を与えてくれる。

(A)高橋財政期の財政健全化論議における「支出削減」と「歳入増大」の選択肢は,今日の財政健全化論議と多くの共通点を有しているが,今日の租税政策に求められるのは,社会的・政治的・経済的な変化に対応した租税システムの構築である。

(B)高橋財政期では,経済成長の回復を税収という果実に確実に結びつけるためには,直接税中心主義に基づく租税体系への転換が必要とされたが,今日の税制改革論議で求められているのは,大衆民主主義の浸透,ケインズ革命と福祉国家化という歴史の階段をのぼった後に求められる「小さな政府」の姿である。

(C)結論的には,今日の税制改革に求められるのは,少子高齢化に対応可能でかつ景気が回復した時点で税収を確保できる租税システムの確立であり,まず,租税弾力性を失ったわが国の税制を通常の状態に戻すことが先決である。

 本稿は,現代日本の租税制度の形成過程における,現代的な租税制度の構築とその挫折の過程を,一次資料に基づき,綿密かつ地道に調査・分析した労作である。本稿で展開されたわが国租税制度史の一齣は,貴重な学術文献として高く評価でき,また,本稿で得られた知見は,今日の財政再建問題と租税政策の関連を考えるうえで,重要な示唆を与えるものである。

会計検査院研究本文(会計検査院のホームページへリンク)(PDF)・・・・・709KB


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