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中井 稔 著
「銀行経営と貸倒償却」

(株式会社 税務経理協会 平成19年2月刊)


 本書は、日本興業銀行の経理部幹部として深く関わった著者が、系列の住専JHL社に対する貸倒損失の税務上の損金経理が争点になった興銀事件について、更正決定(平8・8・3)から東京地裁判決(平13・3・2興銀勝訴)、東京高裁判決(平14・3・14国税勝訴)、最高裁判決(平16・12・24興銀勝訴)に至る過程で浮上した多岐にわたる論点を、商法、税法、倒産法務の理論を駆使して多角的に分析し、私見を述べたものである。その主たるものは次のとおりである。

(1)税務上の貸倒引当金の繰入率は、会計基準である「金融商品の会計基準」によるべきであるが、同基準の債権区分の若干の問題点を修正した上で、税務上の取扱いが実務に対して強い逆基準性をもつことに配慮し、企業会計と租税会計の両者間の調整を図って新たな規範を確立すべきである。

(2)さきの最高裁は、債権が回収不能であるか否かは、債務者の資力のほか、企業関係者の社会通念に従って判断すべき旨を判示したが、筆者は、広く文献を渉猟し、最高裁の判旨はすでに商法学者の通説であったこと、古くは国税当局者によっても同趣旨が述べられていることを指摘する。

(3)上記に関連して、筆者は、債権者が関係者の十分な協議や閣議、行政機関等の決定によって回収を断念した場合、貸倒れとすることは金融界の慣行であったとして、「条件付」債権免除であることに固執して、かたくなに貸倒れを否認した国税の対応を批判する。

(4)直接当事者の立場からの旧興銀事件の経緯と回顧に相当の紙数を費やしているが、本文の理解を深めるために有益である。国税当局との事前の折衝や新聞情報等からは、国税は貸倒れを認めない代わりに、寄付金非該当の損金とすることにこだわっていたとされるが、筆者は、その背景には、国税が当時の住専を巡っての社会的風潮に配慮したことがあったのではないかと推測している。

(5)そのほか、裁判に提出された資料に基づき、母体行が揃って債権放棄を行うのであれば、放棄の日の属する年度の損金に算入を認める旨の国税の非公式の見解が紹介されているが、筆者は、他のケースでは単独でも認めている例を挙げて批判的見解を示す。

 本書は、国税と争う立場からではあるが、貸倒償却に関する多彩な問題点を、注記に見られるような詳細な文献を駆使して掘り下げていることは、これまでの議論を整理するに止まらず、今後、新しい規範の確立に大いに貢献するものとして高く評価できる。


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