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森澤 宏美 稿
「推計課税に関する一考察」

―実額反証の議論を中心として―
(修士論文 専修大学大学院院生)


 本稿は、推計課税における実額反証の許容性につき、その許容の根拠、実額反証の程度、範囲について、判例及び学説の動向から、検討するものである。

 まず、推計課税の意義やその沿革について検討し、推計課税の法的性格につき、詳細な検討を加えている。

 推計課税については、別世界説(実額課税と並列、独立した制度とする説)と、事実上推定説とが存在するが、現在の通説、判例は事実上推定説であるとしている。この事実上推定説にも、狭義の事実上推定説と補充代替説とがあることを指摘している。

 筆者は、補充代替説について、推計課税の必要性が要件として掲げられていること、実額課税に代替する一つの課税方式であって、事実上の推定を法規化したものではないこと、推計課税の意義を所得税法156条等の法意に求め、租税負担公平の原則を重視していること、推計の合理性は、代替手段にふさわしい一応の合理性で足りることなどの、利点が認められるものの、次のような問題があるとして、事実上推定説を支持している。すなわち、補充代替説によれば、1)「補充性」の意味が明確ではなく、補充性であることは異論のないところ、その補充性を強調することにより、推計課税の本質を明確にできないと思われること、2)「代替」についてもひとたび推計課税がなされれば、実額反証は許されないことになるのが理論的であること、3)納税者の推計の合理性を争う方法を狭める結果になる、などの問題があると指摘する。

 また、事実上推定説には、1)申告納税制度においては、直接的資料により所得の実額を把握することが理想であること、2)課税庁は十分な直接的資料が得られない場合に限り、推計課税が認められる、3)推計課税の合理性の判断に当たっては、実額に近い所得を推計する必要と、実額課税が不可能であるという事実との調和を図るべきこと、4)訴訟において実額が認定できる場合には、推計課税に必要性、合理性が備わっていても実額には対抗できない、などの理由から、事実上推定説によるべきとされている。

 実額反証の許否について、推計課税制度につき別世界説をとる見解によれば実額主張自体も認められないことになるものの、事実上推計説によれば実額主張は認められることとなる、としている。その場合の実額反証の性質については、「間接反証事項」あるいは「再抗弁」とされるが、いずれにせよ、立証責任は納税者側にあるとしている。

 この立証の程度につき、1)総収入金額・必要経費説、2)総収入金額・必要経費及び両者の対応関係説(三位一体説)、3)折衷説(収入金額が実額で算定されていて、必要経費のみ推計の場合には必要経費のみ実額主張できるとする説)等が提唱されていることを紹介し、筆者は、必要経費のみ争う場合には実額反証によって推計課税を覆すためには、真実の所得額を証明する、厳格な証明が必要として三位一体説によるべきとしている。

 筆者は、数多くの学説、判決について、よく整理、分析し、かつ、適切な批判、検討を加えており、大学院生にふさわしい論文として評価できるものである。


論 文(PDF)・・・・・・2.39MB


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