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青砥 麻樹 稿
「法人税法における貸倒れに関する一考察」

 ―貸倒れの事実認定とその解釈について―
(専修大学大学院 院生)


 本論文は、貸倒れの事実認定とその解釈の在り方とテーマ設定して、法人税法における貸倒れをいかに認識すべきかを関係法令の解釈と米国との比較制度手法、そして、興銀事件を中心とする注目裁判例を素材に分析したものである。本稿は7章から構成され、その検討の結果、主として次の3点を結論として導出する。

 (1)法律による課税要件法定化・明確化
 貸倒損失については、法令上損金算入の拠りどころを明らかにするため、租税法律主義の観点から法的整備を進めることが妥当であると考える。米国の規定を参考として事実認定の明確化が図れることを指摘している。

 (2)部分貸倒れの検討
 現行法人税法では、部分貸倒れの損金算入は認められていない。しかし、部分的に無価値となった債権の貸倒れを認めることで、担税力に即した課税がなされることになると考える。部分貸倒れの損金算入を認めることは、ゴーイング・コンサーンという企業の性格から考えると、国庫の税収は変わらないことを示唆する。

 (3)貸倒引当金の在り方
 貸倒引当金を理論的に検討した結果、売上債権についてのみ貸倒引当金を設定することが妥当であるという結論を導いた。つまり、金銭債権であっても、貸付金などのように、あらかじめ信用リスク等が織り込まれた利子率を設定する場合には、上述した対応概念には合致しないことを指摘する。

 本論文は、労作であるとの評価ができるであろう。また、租税法律主義の視点から問題意識が貸倒損失の認定に投影しようとする点でも評価できる。その問題意識が長編であるにもかかわらず、内容が緩慢なものになるのを回避させている。

 しかし、以下の点で問題点も垣間見える。

 まず、筆者はサブタイトルを「貸倒れの事実認定とその解釈について」としているが、事実認定と法解釈は符合しない。認定された事実は法的解釈ではなく法的評価の対象となる。筆者が解釈とする趣旨は関連規定の解釈をさしているのではないことは確認できる。そうすると解釈とは認定された事実に解釈を加えるという意味であるのか否かが不明である。

 ついで、貸倒れの事実認定判断が論文の中心課題であるにもかかわらず、なぜ貸倒引当金の議論に多くの紙幅を費やさなければならないのか。これも疑問であり、本論文の評価を低める結果をもたらす。

 また、本論文のタイトルに対応する記述内容は、実は第1章と4章以下の記述内容で十分に足りるものであり、2章、3章は不要であったといえる。

 税法は私法上の法律構成を前提に解釈・適用されることを見落としていることが本論文の最も大きな欠点といえよう。私法の法律関係を前提に税法は適用されることが租税法の最大の特徴なのである。

 要件事実論の大家、伊藤滋夫教授の要件事実論関係の文献を参照していないことも事実認定の議論を深めることができない原因ともいえよう。

 以上の課題を有するとはいえるが、修士論文として法人税法上の重要かつ困難な問題点のひとつに真摯に挑戦し、筆者なりの問題解決の方向性を具体的に提示した点は高く評価できるものである。

 貸倒れの認定判断の法的基準を確立することは租税法律主義の要請からも筆者が指摘するように重要な課題である。筆者の問題意識は本質的であり学界においても共有されるべきものと思われる。租税法実務をも射程に入れた本論文の内容は労作として評価できよう。


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