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橋本 恭之 著
「日本財政の応用一般均衡分析」

(株式会社 清文社 平成21年3月刊)


 本書は、地方交付税改革を含む税制改正による財政政策の変更が経済に及ぼす影響について、家計と企業及び政府の相互依存関係を考慮した形でシミュレーション分析を行った一連の論文を集約した著作である。

 本書の目的は家計と企業の相互依存関係を考慮した一般均衡分析であるが、そのための分析ツールには静学的応用一般均衡モデルと世代重複型応用一般均衡モデルが使用されている。

 まず第1部では、静学的応用一般均衡モデルを用いて、(1)社会保障財源のあり方に関する基礎研究としての雇用主負担の経済効果分析、(2)税率切り下げと課税ベース拡大を組み合わせた法人税制改革の短期的なシミュレーション分析、(3)道路特定財源の一般財源化政策を、公共財購入と社会保障給付の双方の観点から資源配分機能の公平性、効率性を評価するシミュレーション分析、(4)地域・消費者・産業について単純化したパイロットモデルの下での地方交付税の税率引き下げ効果の分析と、村山税制改革の地方消費税導入を契機とした地方財政改革の下での一般均衡分析を行っている。

 次に第2部では、世代重複型応用一般均衡モデルを用いて、(1)単純化したライフサイクルモデルの下での定型的な所得税体系から消費税体系への移行の持つ効果のシミュレーション分析、(2)更に、それに高齢化社会において重要性が高まる世代間の所得移転を対象とする相続税効果についてのシミュレーション分析、(3)最後に不況期の財政出動(ケインジアン政策)の効果分析のシミュレーション分析を行っている。

 なお、著者が本書で採用した手法の独自性の説明の一環として、フォートランを利用したプログラミングに関する解説が付属されている。

 税制改正の及ぼす経済効果に関しては、少子高齢化の下で所得・資産・消費課税の負担が世代を超えてどのような効果をもたらすかが、政策立案当局者のみならず納税者一般にとっても極めて重要な関心事となっている。しかし、この問いに応えるためのデータ分析は極めて専門的であり、立案者、税制の研究者、実務家にとっては取り付きにくい性格のものといえよう。本書は、我が国において税制改正が家計・企業・政府にどのような経済効果を及ぼすかについて、定型化したモデルの下で一般均衡分析を行うとともに、その結果に基づき現実の財政政策の評価についての一つの方向性を示したものである点が評価される。これらの分析結果のうちには、税率引き下げと課税ベース拡大による法人税改革については、引当金の廃止効果は長期的には打ち消されると予測されるものの、短期的には経済の活性化、家計部門の厚生増大効果が確認された点や、少子高齢化の下では相続税強化が経済成長を阻害しない税制改正選択肢として有力な可能性があることなど、当面の課題の参考になる分析結果が含まれている。なお、シミュレーション分析であるための現実の複雑な税制効果を評価するうえでの限界点についても詳細に指摘されているが、租税法を租税政策論的に検証しようとする読者にとっては、更にその先の課題解消に向けた方法論の精緻化等の提示につきもの足りなさを感じるかもしれない。

 しかし、国・地方の税制改正がステークホルダーごとに世代を超えて及ぼす経済効果の各種シミュレーションをパッケージとして提示した本件一般均衡分析は、対象の網羅性と相互の有機的関連性からみて、政策評価のためのデータ分析を研究する財政学・租税法の研究者のみならず、政策当局者・実務家にとっても有益な文献的価値の高い著作と判断される。


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