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林 正寿 著
「租税論」

―税制構築と改革のための視点―
(株式会社 有斐閣 平成20年9月刊)


 本著の構成内容は次のようになっている。まず第1章から第4章までは、国民が租税制度を選択するに不可欠な経済学や財政学の基礎を図や表を駆使しながら考察し、国家と租税との関係を分かりやすく述べている。次に第5章から7章までは租税の基本原則、すなわち公平性の原則、中立性の原則、簡素性の原則を、ただ通り一遍の説明ではなく、それらの思想がこの世界でどのように熟成してきたかも踏まえて、考察されている。さらに第8章から第10章までは租税理論として租税の転嫁と帰着、包括的所得税について、そして現在の租税体系の流れとしての所得課税から消費課税について考察している。現在多くの国が採用している包括的所得課税が崩壊に向かい、それに代わって二元的所得課税が採用されてきていることを、北欧諸国の現状を示しながら、分かりやすく述べられている。

 そして第11章から第19章までは個別の税種を考察しており、それもわが国の区分によらずに、世界的視野から区別しており、第11章ではフラットタックス化や貯蓄控除(USA控除)による実質消費税化を述べている。第12章では法人課税のインピテーション方式の検討がなされ、第13章からは消費税を中心に、間接税の全取引段階に課税する一般消費税化が指摘されている。第15章から第17章まで財産課税が検討され、各国の資産課税状況などが述べられている。第18章では、年金方式を含む社会保障税が考察されている。やはり所得税から消費税に、その重要性がシフトしてきていることから、個人消費税、企業消費税、一般消費税:小売税と付加価値税、個別消費税と区別して、間接税の全取引段階に課税する一般消費税化が指摘されている。最後の第20章では国際課税として、グローバル経済のもとに、EUにおける事前確認制等を含む今後の課題をあげて、検討を進めている。

 本著書は著者林正寿教授の長年にわたる租税論研究の総決算という内容となっている。副題で「税制構築と改革のための視点」としているように、わが国の税法の解説というようなものではなく、所得税、資産税、消費税の理論的考察を、それらを初めて法制化した諸国の税を紹介し、又それを発展化している先進諸国の税制をあげて、考察している。本著書の傑出しているところは、税制の基礎となっている経済学、財政学を深く掘り下げて紹介している点をあげられる。そのために、先に述べたように、現行税制を表面的に紹介するというようなものではなく、税制について、経済学、財政学を基礎にして、どうあるべきかについて、読者に多くを問いかけているといえよう。著者によると、数学や計量経済学を用いた分析手法をできるだけ省き、図や表を利用してわかりやすく展開したとしているが、今の文化系の大学生では、やはり理解に限界があるようにも思われ、大学院生や大学教員等のレベルの著書に思われた。読者の姿勢としては、例えば所得税の本質を理解したいという場合に、ただ所得税のみを知るというのではなく、税体系の中での所得税の位置付けを理解していくという、すなわち、他の資産税、消費税との関係がどうあるべきかという考察のアプローチが示されており、逆にそのような研究の姿勢でなければ所得税を理論的に究明できないということを明らかにしている。一読すればそれで使命が終わるような著書ではなく、今後においても諸税を研究する上で、その研究の姿勢を誤らないための多くを示唆した、貴重な著書といえる。

 著者は今までに、税制を研究するに重要とされる多くの国に留学し、その最新の成果も示されている。著者としては、本文が300頁余りであることから、随分と書き足らないところがあったのではなかろうか。読者としてはわが国の税制について、さらに論述を望む声もあるのではないか。できれば、その分を補充しての著書の公表を期待するところである。


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