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松田 直樹 著
「租税回避行為の解明」

―グローバルな視点からの分析と提言―
(株式会社 ぎょうせい平成21年3月刊)


 筆者の問題意識は、消費税率の引上げや企業活動の国際化がさらに進展すると、企業の租税回避行為は巧妙化し活発化することが予想されるが、その有効かつ強力な対抗策を構築することが緊急の課題であるという点に凝縮されている。その問題意識の下に対抗策をいかに構築すべきかを、比較法の視点から考察することを目指したのが本書の内容である。

 本書は、諸外国が構築している租税回避行為に対する課税当局の対抗策の制度的特徴を比較分析し、その有用性と限界を明らかにし、我が国の対抗策整備への示唆を得ることを目的とした労作である。

 本書は、9章より構成されている。まず、第1章で我が国における租税回避スキームヘの対応の現状と問題点を分析し、取り組むべき課題を明らかにし問題の所在を明確にしている。策2章〜第5章では、問題の所在を踏まえてコモン・ローの国々の租税回避の対抗策の特徴と実態を分析している。第6章では欧州の主な大陸法の国々の対抗策を分析し、第7章では、EU加盟国の主な対抗策と欧州司法裁判所等との関係を考察し、対抗策の国際的租税回避行為等に対する有用性とその限界を明らかにしている。第8章では、主要国のグローバル化しているとされる対抗策の特徴と構造を分析している。終章では、主たる諸外国の対抗策が包含している示唆を踏まえたうえで、我が国の対抗策の強化手段となり得る主な選択肢を明らかに提示し、さらに具体的な制度設計のあり方や選択肢の優先順位等について論じている。

 筆者の論旨は、経済取引の複雑化と国際化の流れの中で租税回避行為も高度に進化してきており、十分な法的対抗策が整備されていない我が国の状況下で租税回避行為を阻止することが求められる租税行政庁の困難さの現状を打開するには、包括的否認規定に代表される強力な対抗策を整備すべきであるという点に集約される。

 そのためには諸外国がいかなる対抗策を有し対応しているかを詳細かつ広範に分析している。さらには諸外国の租税回避の否認をめぐる裁判例の検討が丹念になされている。

 租税回避行為は高所得者が利用しており、一方で一般の納税者に増税がされるのは理不尽であるとの論理に立っている。論旨は一貫しておりクリアで評価できる。

 しかし、導入された包括的否認規定は、包括的であるがゆえに不確定概念に属する文言を規定に盛り込まざるを得ない。租税回避を阻止すべきであるとの立場は担税力に応じた課税の実現の視点から賛同できるが、一方で、否認規定を運用するのは課税当局であり、裁量権の強大化をいかに抑止するかという、租税法律主義の視点からの批判的検討もこの種の分析では必要であり、その点に言及しない研究はその評価を減殺する要因となる。

 強力な対抗策は大企業や高所得者ばかりか一般の納税者にも適用されかねない。その際の租税行政庁の恣意性の排除の法的装置はいかにあるべきかといった視点は、納税者の権利意識が顕在化してきている昨今の現状を踏まえると不可欠である。この点を考慮外に置いている点は本書の一つの課題といえよう。

 しかし、前述通り、本書が現在の租税法上の最も重要な課題の一つに果敢に挑戦した労作であるとの評価は不動のものといえよう。


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