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岡 直樹 稿
「移転価格税制における情報義務と独立企業間価格の証明方法に関する考察」

 ―納税者・課税庁双方の利益を目指して―
(税務大学校論叢59号 平成20年6月)


 本論文は、移転価格税制における独立企業間価格算定方法をめぐる紛争解決手続に関する重要課題を網羅的に抽出し、順次実務的観点と理論的観点を織り交ぜながら、判例や外国税制なども参照しつつ体系的に検討したものである。検討結果を踏まえた証明責任や情報提出義務に関する提言については、課税当局側研究機関に所属する著者が、移転価格の証明プロセスでの当局・納税者間の負担の公平バランスに留意したとしながらも、課税当局の直面する課題解決に軸足を置いた構成となっている。

 主要論点を個々にみると、まず、証明責任に関しては、(1)独立企業間価格の算定方法が納税者及び課税当局の双方で異なる場合の立証責任の配分は、民事訴訟法における要件事実論に従って整理すべきであり、算定のため必要な情報量と比較可能性との間には明確な相互関係が認められると分析し、(2)当局が基本三法以外のその他の方法を利用する場合に「基本三法を用いることができないこと」の証明を求めることは不合理であると、米、独、英、加の比較法研究に基づき主張している。また、類似取引が存在しない場合の独立企業間価格算定方法の証明については、金利やソフトウェア販売委託取引を扱った判例を基に、いくつかの選択肢を提供している。

 次に、資料提出義務との関係では、(1)国外資料の入手に関する努力義務と推計課税規定との関係も要件事実論の考え方の下で整理され、併せてシークレットコンパラブルの利用につき一定のガイダンスの必要性の提言を比較法研究により行い、(2)移転価格の検証過程の文書化(ドキュメンテーション)の充実による紛争回避の必要性を強調している。

 結論としては、課税要件論の適用により当局・納税者間の証拠をめぐる負担の合理的配分が可能であること、基本三法の利用不可能性についての完全な証明責任は当局にないこと、独立企業間価格算定に必要な情報の確保は現行法の下で十分可能であり、資料提出についての自発的コンプライアンスは納税者のリスク軽減にもつながりうることを論証している。 移転価格課税については、近年大型課税事案をめぐる訴訟を通じて、立証責任の所在や立証の仕方に関する議論が進展しており、課税手法そのものについての実体法要件すなわち比較対象取引との比較可能性分析や無形資産の評価方法などと並んで、学者・実務家間で研究が進みつつある分野である。本論文は、訴訟において必ずしも成功を収めていない課税当局の問題意識も反映しつつ、基本三法を中心としたヒエラルキーにある各種算定方法間で、利用可能な情報との相関関係でどのような課税手法がどの程度の証明責任の下で適用可能かを検討し、理論的な根拠付けを試みたものである。この過程では、我が国判例のみならず、米国等の経験やOECD移転価格ガイドラインを参照して、比較法的分析にも努めており、これらの議論において課税当局者が陥りがちな執行偏重の価値判断の表明は抑制されている。また理論分析に当っては、法人税、国際課税の広範な領域に共通する税制政策論にも配意がされており、各テーマごとの分析水準は高く、また、提言内容も実務と理論の双方を踏まえた説得力ある優れた論文と判断される。


論叢本文(税務大学校のホームページへリンク)(PDF)・・・・・・781KB


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