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川口 幸彦 稿
「信託法改正と相続税・贈与税の諸問題」

(税務大学校論叢57号 平成20年6月)


 本論文では、信託課税制度について、従来の制度についての「信託行為時課税」に対する批判などの問題が、平成19年度改正により、どのように解決されたか、あるいは新たな問題はないか。さらには新たな制度が租税回避行為目的に利用されないための対策に問題はないか等の問題を相続税、贈与税に関して研究したものである。

 まず第一に、新しい信託課税制度を検討するに、まず新しい信託法の内容を理解しておく必要があることから、相続税や贈与税に関連する項目である(1)信託の設定方法や信託の効力の発生の時期、(2)受益者等、(3)委託者、(4)信託の終了及び清算、(5)信託の新たな類型の創設、特に遺言代用の信託等について検討している。第二として、従来の相続税等における信託課税制度の内容と問題点がどのようなものであったかを中心として、(1)信託課税制度の沿革、(2)従来の信託課税に対する批判等、(3)アメリカのグランター・トラスト(譲渡者信託みなし自益信託)、(4)信託設定時における信託受益権の評価、裁量信託の課税問題や取消の可能性による課税の区分説の紹介、(5)従来の信託課税における問題点と改善策について検討を行っている。第三として、信託法の改正に伴う新たな信託制度を考察するに、相続税法第9条の2から第9条の5までの条文の検討を行っている。最後に、以上の信託課税制度の問題点を踏まえた上で、新しい信託課税制度の問題点とそれらの解決策について検討を行った。また、新しい信託課税制度には、いくつかの租税回避防止の手法が採られているが、その実効性についての検討を行った。

 結論としては、新しい信託法が、「資産流動化信託」と「福祉型信託」という全く異質な信託を規律しうるかについては、今後、様々な議論がされるであろうが、それに合わせて改正された信託課税制度が、十分に対応できるか否かについて、真価が問われることになろうとしている。信託は弾力性を有するだけでなく、委託者、受託者、受益者が存在し、財産を有する者と受益を有する者とが異なることから、課税関係を律する上で大きな困難を伴うことがあり、さらに信託を利用しての租税回避が行われることがあり得るので、その防止策を講じる必要があるゆえに、課税の公平性を完全に実現する信託課税制度を構築することは極めて困難であると考えられている。

 このたび、民事から新たな福祉型信託が活用されることによって、新たな問題が生じようが、それに伴い新たな信託課税制度において活発な議論が展開され、良い制度となって行くことを期待したいとしている。

 本論文では、新しい信託法のもとで大改正がなされた信託課税制度についての検討と提言を行っている。その中心は、信託に関連する相続税等に関して、「信託行為時課税、受益者課税、信託受益権に対する課税」という3つの特徴を基に、様々な問題提起がなされてきたが、今回の改正ではどのような改正が図られたか、新たな問題は生じていないかについて研究がなされている。また、信託の歴史からも明らかなように、信託は、その所有権の分散機能により、所得隠しや財産隠しに利用されることが懸念され、このたびの信託税制では、その点に配慮して様々な租税回避の防止策が講じられたが、十分に機能するものであるかについて研究されている。

 まず「信託行為時課税」は、相続税等の累進税率を用いた課税制度においては、受益時課税よりも課税の公平性の点で優れているとしている。次に「受益者課税」においては、委託者が種々の権限を留保している撤回可能信託では、受益者に課税せず、グランタートラストと同様、委託者がその信託財産を有するものとみなして課税関係を整理すべきであるとしている。すなわち実質に配慮している点で歓迎されるとしている。さらに「信託受益権に対する課税」では、裁量信託については、個々人の受益額が特定できないことから、受益者に対する課税でなく、(1)信託財産に対する課税、(2)遺産税(又は贈与者課税)も検討すべきであるとしている。さらに遺言代用の信託については、実質的には、民法の死因贈与と同じ効果を有することから、同じ課税方法(相続時に相続税を課税)とすべきであり、信託行為時に贈与税を課税すべきではないとし、さらに受益者連続信託の評価については、受益者の平均寿命までの期間を前提とした(統計的手法を用いた)評価方法を導入して課税関係の見直しが必要であるとした。

 信託を用いての租税回避については、信託業法等が改正されたことによって信託の受託者の範囲が拡大されたので、故意に調書を提出しない受託者が現れる可能性があるので、依然として租税回避の余地は残されているとしている。また、受益権の評価はあくまでも、課税時点における状況を作り出すことを考える者がいないとも限らないことから、今後においても、租税回避については注意を払う必要があるとしている。

 本論文では、信託法、信託業法の大改正に伴って信託税制も大幅な見直しがなされたが、はたして従前からの、又は新たな信託法、信託業法の諸問題に十分対応した信託税制の見直しであったかについて、とくに相続税法、贈与税法の観点から仔細に分析、検討を行い、今後の問題解決の方向を適確に示している。それぞれ事例をあげて、正確かつ具体的な説得力のある研究を進めており、まだ実務で十分にこなれてきていないことから、今後の更なる考察に期するところもあるが、極めてレベルの高い論文となっている。


論叢本文(税務大学校のホームページへリンク)(PDF)・・・・・・835KB


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