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林田 実 稿
「流通税と取引高」

 ―日米市場で同時に売買される株式銘柄を用いたパネル分析―
(Journal of Japanese and International Economiesvol.23 No3
 September 2009の日本語原稿)


 本論文は、1980年代末から順次減税が繰り返され、最終的には廃止された流通税の一種である有価証券取引税を題材とし、その税制改正が狙いとした株式取引促進効果の側面を切り出して、当時の日米両市場における一定の日系企業株式銘柄の取引高の変化を統計学的に分析し、税制改正効果の検証を行うことを目的としたものである。

 論文の大半は数式を用いたデータ分析であり、また、当該データ分析を精緻化する必要上、複数の税率引き下げのうち、譲渡益課税の復活とのミックスになった1989年度のものや、手数料自由化が行われた1998年度のものを除外し、単純な税率引下げ改正のみであった年度〔1996年と1999年の改正〕を対象としている。その結果、税率引き下げ対象取引が限定的であった1996年改正では有意な差異は見出せないが、1999年改正では米国市場に比べ日本市場で明らかに取引が拡大したという検証が行われたとしている。なお、本論文は東洋大学准教授大野祐之教授との共同論文とされており、掲載誌は英文研究雑誌である。

 本論文は、わが国では本格的に取り組まれることが少ない、税制改正の目的達成度測定のためのデータ解析を、有価証券取引税という特定の税目を材料として行ったものであり、税率引き下げが取引量を拡大する税制改正効果を実現したかどうかを、日米両国の市場で取引される日本企業17銘柄のパネルデータを用いて分析し検証したものである。この間米国市場の制度変更がないことを確認したうえで、価格変化と取引高に関するV字型相関の枠組みを用いて統計的な比較検討を行っている。更に税制改正をダミー変数でとらえて、それを切片及び傾きの両方に取り込んだ「一般モデル」と、切片シフトだけに取り込んだ「制限モデル」を考案し、推計を行っている。

 この結果1999年の有価証券取引税の完全廃止において、制限モデルの下では、我が国市場で取引高が増大し、米国市場では増大しなかったとの示唆が頑健かつ統計的に有意に示されている。

 租税政策の取引に及ぼす効果を他の要因から分離し実証的に検証することは、理論的にも技術的にも困難な課題であるが、ひっ迫する財政事情の下では租税優遇策の効果はますます厳格なモニタリングの下におかれる必要がある。本研究は有価証券取引税を材料として、精緻な統計的推計を行ったもので意欲的な取り組みと評価されよう。ただし、取り上げた税目が有価証券の流通税であり、近年わが国を含めた主要国の税制設計の中では譲渡益課税としての取組みに集約されつつある領域であることから、分析結果の将来に向けた活用価値がやや限定されている点は残念である。また、本論文も指摘するように1989年の有価証券取引税の減税が譲渡益課税の復活とトレードオフの関係にあったように、現実の税制改正は必ずしも単一の目的のためのみではないため、統計分析には大きな困難が伴う。税制改正効果の抜き出しのために、税以外の要因(手数料等の変更)や税の要素の中での相互の影響力要因(税率のみならず課税ベースの広さ、他の税との関連)の比較検討も重要性を示唆する本論文は、今後の実証研究の基礎を築く意欲的な研究として評価されるべきものである。


論 文(PDF)・・・・・・386KB


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