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伊藤 賢博 稿
「役員が横領行為により得た利得の税務上の取扱いに関する一考察」

―損害賠償請求権か認定給与かの判定について―
(新潟大学大学院 院生)


 本論文の目的は、法人の役員の横領行為について、役員の地位を利用して得た経済的利益として源泉徴収を含む認定給与課税が行われたケースについての、課税理論の研究である。

 まず本論文は、役員の横領行為を、法人の有効な行為とみて社外流出を役員給与と認定する場合と、法人の無効な行為とみて法人の損失計上と役員に対する損害賠償請求権を認識する場合の税務取扱いの差異を指摘し、大阪高裁平成15年8月27日判決(社会福祉法人の理事長の横領事案で、法人からの損害賠償請求権が先行する民事訴訟で確定していたケース)における役員給与認定の拡大解釈に疑問を呈するところから、検討をスタートさせている。そして学説・判例の検討のうえ、役員の横領の場合は、納税者の予測可能性確保の観点から「法人が役員に対して金員等を支払うことについて明示または黙示的な意思を有していること」を役員給与認定の要件とすべきと結論づけ、そのための法人税法基本通達の改正案文を最終的に提示している。

 具体的な検討過程においては、まず第1章で、役員の横領行為の私法上の取扱いと税法上の取扱いが相違する場合の法人にとっての源泉税負担と当該経済的利益が役員から返還された場合の雑益計上の可能性にかんがみ、横領についての役員給与認定のための明確な判断基準の必要性を指摘し、第2章で、大阪高裁判決は理事長の実質的な法人支配権のみを理由として法人の行為を認定し、その結果、役員給与認定を行ったもので、従来の判例との不整合があると結論付けている。

 そして、関連する学説・判例研究を行う第3章、第4章では、松沢・大渕両教授の分類に則して認定給与の認められる範囲に関し、法人から役員に対して金員等を支払う明示または黙示的な客観的意思のある場合に限るとする解釈論が正当であると主張し、その観点で過去の判例を検証し、結論の如何を問わず、上記解釈論で取り上げられたすべての判例が説明できるとしている。そして、同趣旨を解釈原理とする法人税法基本通達の改正案文を提示している。

 本稿のテーマは、法人税法34条4項が役員給与として広く多様な経済的利益が含まれることを予定しており、かつ役員は実質上法人の経済行為を代表しうる立場にあって、自らに利益が及ぶ経済的実質のある取引を自由に操作しうることから、税務調査でよく指摘される問題となっており、納税者・実務家双方の関心が高いテーマである。

 本論文の「法人の明示または暗示の意思」を基準とした認定給与課税の解釈論提起には、「法人の意思」と役員の機能についての法人のガバナンスの観点からの分析(営利法人・公益法人の区分を含む)や、源泉徴収制度が確保しようとしている執行面の簡素性や公平担保の趣旨の観点からの検証が不十分な点は認められるものの、納税者にとっての予測可能性の観点から、とかく課税当局の幅広い裁量の下で広範囲にわたって認められてきた認定給与課税に、一定の解釈論による限定を置こうとする首尾一貫した主張が論理的に整理されて提示されており、租税資料館奨励賞にふさわしい論文と評価できよう。


論 文(PDF)・・・・・・421KB


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