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川口 宜孝 稿
「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の課税問題の一考察」

 ―求償権行使不能の判断基準を中心とした法解釈の検討―
(聖学院大学大学院 院生)


 本論文の目的は、所得税法64条2項(保証債務を履行するために資産を譲渡した場合に譲渡所得が非課税とされる減免規定)の適用要件について、その適用上の課税問題を論じることにより、保証債務の履行に係る課税関係のあるべき姿を提示することにある。

 本論文は全5章から構成されている。まず、第1章では、所得税法64条2項の立法経緯および立法趣旨を概観するとともに、求償権行使不能額の法的性質について検討している。次に、第2章では、保証債務の存否の問題を取り上げ、(1)主たる債務者に資力がないことを認識していた場合における保証債務の存否、および(2)主たる債務者において債務の借り換えが行われた場合における旧保証債務と新保証債務の同一性の有無について検討している。次に、第3章では、資産の譲渡と保証債務の履行との因果関係について検討している。本条項の適用を受けるには、資産の譲渡と保証債務の履行との間に原因と結果、あるいは手段と目的といった因果関係(あるいは牽連関係)が必要であると解されている。しかし、課税実務では、時間的逆転や原資不一致など保証債務の履行プロセスは多様であることから、各履行プロセスに則して因果関係を認める限度を論じている。そして、第4章では、本条項の適用要件の1つである「求償権の行使をすることができないこととなったこと」について、連帯保証人が保証債務を履行した後に求償権を取得し、その後、求償権の行使ができない場合を取り上げ、各種の要因によって課税関係がどのように変動するかを検討している。最後に、第5章では、本論文を総括し、保証債務の履行に係る課税問題を検討する場合、「整合性」((1)立法趣旨との整合性、(2)客観性との整合性)を意識して検討すべきであると結論づけるとともに、確定申告書の提出期限後に求償権の行使が不可能となった場合の所得税法と相続税法の取扱いの相違に言及し、相続税法においても、更正の請求を認めるべきであるとの提言を行っている。

 本論文は、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の課税の特例規定である所得税法64条2項について、その適用上の諸問題を仔細に検討したものである。本論文では、裁判例や学説の検討を通じて、多くの論点を抽出するとともに、それらを論理的かつ体系的に整理している点は評価できる。また、保証債務の履行により「譲渡による経済的利益」を享受していないケースは所得税法64条2項を適用すべきであるとの主張は、首尾一貫しており、その論旨は明快である。ただ、本論文の総括部分の「客観性」という用語の使用に若干の違和感があること、また、参考文献が少ない点に不満は残るものの、仔細な分析に裏付けられた努力作であり、租税資料館奨励賞に該当する優れた論文として評価できる。


論 文(PDF)・・・・・・369KB


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