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高岡 尚平 稿
「租税法規不遡及の原則に関する一考察」

 ―平成16年度税制改正を踏まえて―
(龍谷大学大学院 院生)


 本論文では、平成16年の改正による長期譲渡所得の計算上生じた損失の損益通算を制限する規定が、施行日前の取引に適用される立法となっていたことにつき遡及立法の違憲性が争われた訴訟事件を評釈し、租税法不遡及の原則が遵守されるべき原則であることを、過去の判例や学説を根拠にして展開している。当原則は、租税法律主義の目的として導かれる原則であることから、「租税法律主義の目的」の確認と考察を行い、租税法における遡及立法が許されるか否かを考察している。その結果、憲法上、明文の規定はないものの、原則として禁止されていることを確認している。しかし、租税法不遡及の原則は、絶対的なものではなく、例外を許容するものであることも確認している。

 この租税法不遡及の原則の例外については、その具体的事由等の内容を明らかにしている。租税法における遡及立法を許容する特別事由として、まず納税者の「法的安定性・予測可能性の視点」から考察を行っている。そこで、遡及立法の可能性について、遡及立法せざるを得ない「合理的必要性の視点」からの考察を行い、さらに所得税に係る「期間税の視点」からも考察を加えている。これらの検討を踏まえて、租税法規不遡及の原則が許容される例外について、その判断基準を明らかにしている。

 以上の検討の結果として、租税法規不遡及の原則は、租税法律主義と同様に遵守されなければならない原則との結論に達している。その例外を許容する場合とは、納税者が事前に遡及立法を把握でき、遡及立法による不利益を回避する行動を行う期間が保障され、法的安定性が確保されている場合に限られるとしている。さらに当原則が許容されるためには、納税者に不利益を与える遡及立法を許容し得るだけの合理的必要性が求められるのである。また、期間税としての租税の性質が、直ちに遡及立法を許容する要素とはならないことを確認している。

 本論文で取り上げている一連の裁判では、遡及立法を認めるか否かについて、その諸事情を総合的に勘案して決定している。まさに立法府の裁量的判断に拠ることが大きいわけであるが、このたびの一連の裁判では、平成20年1月の福岡地裁では違憲判断で納税者が勝訴し、同年2月の東京地裁、5月の千葉地裁では合憲判断で課税庁側が勝訴している。いずれも控訴され、同年10月の福岡控訴では合憲判断で課税庁側が逆転勝訴している。他の裁判では、平成21年の2月の東京高裁では課税庁側が逆転勝訴し合憲判断を下している。確かに仔細を検討すれば、課税庁側に部があるともいえようが、最近においては、たとえば平成20年4月で失効した租税特別措置法上の交際費等の損金不算入制度について、不利益遡及立法が認められるべきか否かが新聞でも大きく取り上げられた。国会においてはますます審議する案件が増えて行くであろうから、期限切れで失効となるケースが多くなっていくであろうことを考慮すると、納税者の法的安定性、予測可能性が損なわれてきていることも踏まえて、遡及立法は、合理的な理由がある場合を除いて、できる限り認めるべきではないであろう。

 最近の判決であることから、公表された論文や評釈が少ないなかで、多くの関連資料・文献に当たり、租税法律主義のあるべき姿から遡及立法に対しての見解を丁寧に纏めていることから、評価に値する論文といえよう。


論 文(PDF)・・・・・・398KB


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