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中村 雅秀 著
「多国籍企業とアメリカ租税政策」

(株式会社 岩波書店 2010年3月刊)


 本書は、著者が、アメリカの多国籍企業の行動分析をベースに国際課税に関する租税政策の実証分析を行った既発表の8つの論文を現時点で見直し、加筆・修正して体系化したものである。

 本書の内容は、1960年代から国際投資・貿易分野で世界のリーダーシップを発揮し続けた米国多国籍企業とそれに対応した米国の国際課税税制の整備のプロセスを広く検証の対象とし、税制の項目別に見ると、外国税額控除、移転価格税制、サービス貿易と税制、外国企業課税、輸出促進税制、電子商取引税制、タックスヘイブン税制といった主要テーマをすべて網羅している。なお、企業行動とそれに対する米国財政当局の税制改正の相関関係を実証研究に際しては、各租税制度の法的構造や主要判例を簡潔に紹介しつつ法的解釈論にも一定の検証を加えながらも、著者の力点は、国際経済学者としてのマクロ経済や企業別のデータ分析の手法を駆使して、多国籍企業の国境を越えたビジネス活動と課税との緊張関係を浮き彫りにして、個々の課税立法立案の背景を論証し、かつ、事後的な当該立法の政策目的実現効果を分析する点に置かれている。

 著者は、グローバライゼーションの先頭を走るアメリカ多国籍企業をめぐる税制改正の経済学的な実証分析を通じて、わが国を含む他の先進国に国際税制の大展開時代のモデルを提供し続けてきた米国の国際課税制度のリーダーシップ性を浮き彫りにしようとしており、その意味では、国際課税法と国際経済学の両分野にブリッジをかけるという意欲の下に編集された体系書の性格を持っている。

 米国税制の研究は、租税法学及び財政学の研究者にとって最大の関心事項であり、中でも国際課税制度については移転価格税制やタックスヘイブン税制に見られるごとく米国が世界のモデルを作ったことから、多くの税法の研究者の業績が蓄積されている。本書は、立法過程の分析や制度の分析・評価などについては、部分的にはこれらの業績と重複する部分も認められるが、多国籍企業のデータ分析を主たるツールとして、米国が自国籍多国籍企業の海外展開をサポートするとともに自国課税権の漏出を防止すべく展開してきた一連の国際租税政策の変遷過程を詳細かつダイナミックに体系化している点で、明らかな付加価値を生み出している。

 米国では近年、国際課税制度の改革を巡り租税法学者とエコノミストの共同研究活動が多く見られるようになっており、本書の著者のような分析は、議会での証言でも政策論のベースとして頻繁に取り上げられるようになってきている。わが国における近年の国際課税にかかる税制改革においても、このようなデータ分析による政策効果の予測や検証は重要なものと認識されてきており、本書はそのための一つのモデルと位置づけられよう。


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