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野村 政彰 稿
「租税法規不遡及の原則についての一考察
 ―平成16年税制改正における損益通算禁止規定の検討を通して―」

(富士大学大学院 院生)


 本論文は、地価低下が続く中で、従来の土地譲渡所得に係る損益通算制度を利用した租税計画などに対抗すべく立法された、平成16年度税制改正(損益通算禁止規定)が租税法規の許されない遡及適用に当たるかどうかが争われた判例を題材にした研究である。著者はこの問題を、(1)租税の類型化と納税義務の成立時期に関する国税通則法の規定の解釈、(2)納税者にとっての予測可能性との関係、(3)立法の背後にある公益性への配慮、の3点から学説及び他の遡及適用に係る判例を検証している。その結果、(1)については国税通則法15条2項は租税徴収の手続上の必要性から規定されたものであり、各税目の納税義務の成立は個別税法によるべきとの解釈(所得税のような暦年終了時に成立するとされるいわゆる期間税も、課税要件事実ごとに納税義務の成否を判断すべき)とし、(2)については厳格な官報登載主義によるべしとし、(3)についても厳格な比例原則に基づき公益性を優先する解釈には限界がある旨を展開している。その結果、判断が分かれた福岡、東京の各地裁判決について、福岡を支持する立場を論証している。

 著者は、まず税法の遡及適用に入る前に、法の遡及適用一般論に言及し、我が国における憲法上の刑罰不遡及の原則の沿革や、英・米・仏の比較法研究を紹介している。この部分については、刑罰法規と租税法の関連につき掘り下げた検証はやや不足しており、むしろ、厳格な租税法律主義に引き寄せた通説的議論を踏襲している感がある。しかし、第4章の具体的判例分析以降において、著者は上記(1)〜(3)の観点に焦点を当てた両判決の比較分析並びに関連学説の検証を丹念に行っており、また、先行する相続税や特別土地保有税に係る遡及適用判決との比較検証も尽くされている。公益性の判断並びに立法権・司法権の役割に関しては、納税者の権利保護にウェイトを置いた一貫した自由主義的解釈論が展開されているが、当局の理屈に対するより有効な反論を目指すなら、さらに立法過程論に踏み込んだ分析やより詳細な比例原則の検証もありえたとも推測される。

 しかし、論旨の明快さと著者の丹念で分析力のある判例評釈は、論文全体の質の高さを如実に表すものであり、奨励賞の水準を十分満たすものと判断される。


論 文(PDF)・・・・・・887KB


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