公益財団法人租税資料館


トップページ>>租税資料館賞>>第19回入賞作品>>「所得分類における二重利得法の再考」
戻る

吉川 貴之 稿
「所得分類における二重利得法の再考
 ―株式報酬型ストック・オプションを題材として―」

(青山学院大学大学院 院生)


 本論文は、分類所得税の下での所得種類決定に際し、譲渡所得と事業所得の双方の性格を有する取引に関し、適用の是非が議論されてきた二重利得法の法理を、主として役員退職慰労金制度に代替する制度として利用されている株式報酬型ストックオプションにも適用できるかどうかを検証したものである。

 本論文で著者が検証の対象としているのは、権利行使価格を1円とする役員向けに供与されるストックオプションであり、その実質は、いわば自社株そのものを報酬として供与するインセンティブ支払である。そこでは通常、権利行使期間は退職後一定期間に限定されているために、最終的な権利行使により実現する所得の中身は、(1)在職中の役員としての役務提供に対する経済的利益の部分と、(2)退職後の株式キャピタルゲインの双方よりなると分析している。著者は、このような二重の性格を持つストックオプションの行使利益についてにも二重利得法の法理念が同様に適用しうるのではないかとして、退職時の株式時価を基準として収入金額を区分する方法を提案している。即ち、そのような区分は実務上も基準が明確でかつ容易であり、加えて、所得の性格付けについても、前者を勤労性所得、後者を雑所得と理論的な整理区分が可能であり、二重利得法の適用モデルとして適切と主張している。

 本論文では、まず退職後5年間程度行使可能とされる株式報酬型ストックオプションを題材として、そのストックオプション行使益の所得分類を、現行の所得税法の解釈・判例検証により検討している。著者は基本通達の考え方を起点として、(1)発行法人と被付与者の関係、(2)付与目的、(3)付与時から権利行使時までの状況を総合勘案しながら、二重利得性を論証している。

 このプロセスでの立論過程は、基本通達から出発しながらも、従来の所得分類理論の検証、特に勤労性所得の性格付けに関する理論を学説・判例分析を踏まえて行っており、そこから切り離されるべき退職後の値上がり益の提示も適切なものであると考えられる。またそれに続く課税手法としての二重利得法の適用可能性の検証の部分では、当該手法を用いることのメリット・デメリットをバランスよく検証している。なお、収入金額の分割に際してのメルクマールの明確性を中心にして、過去の判例が認めた宅地造成型の譲渡所得・事業所得の間の区分との比較検討も行われており、説得力を強化しているが、二重利得法の射程距離一般についての検討は更に充実させる余地があるとも考えられる。

 しかし全体としてみれば、著者の問題点の指摘、それに伴う法的論点の整理、具体的提言のいずれも、法的分析力の水準の高さが反映されたものであり、優秀な論文と評価すべきものと考える。


論 文(PDF)・・・・・・506KB


戻る




Copyright (c) SOZEISHIRYOKAN. All Rights Reserved.