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小島 信子 稿
「移転価格税制における独立企業間価格の算定に係る「レンジ」の採用について」

(税務大学校『税務大学校論叢』67号 2010年6月)

 現行移転価格税制では、独立企業間価格をポイントとして算定されるものと理解されているが、1995年OECD移転価格ガイドラインが「幅」の概念を採用していることから、我が国の独立企業間価格の算定においても、一定の幅を認めるべきとの見解がある。本論文は、我が国において移転価格ガイドラインに則った「幅」の概念を導入する場合に考慮すべき点について検討を行うものである。

 本論文は、昭和61年に導入された我が国の移転価格税制を概観したうえで、現行規定の独立企業間価格は、1979年OECD移転価格ガイドラインを参考にして制定されており、そこでの独立企業間価格は、「幅」のある概念ではなく「ポイント」としてとらえられていると評価する。次に、米国及びOECDにおける「独立企業間レンジ」の概念及び導入経緯を分析し、米国では、1994年財務省規則の改正でレンジの概念が採用され、複数の比較対象取引からなる幅の概念である「独立企業間レンジ」及び幅が生じた場合の調整ポイントが規定されたこと、OECDでは、1995年OECDガイドラインで「幅」の概念が導入され、2009年改定案でその概念が明確化されたことを明らかにする。さらに、英国、カナダ、豪州及びドイツにおける移転価格税制の「幅」の概念を含む独立企業間価格の取扱いを分析し、ドイツ以外は1995年ガイドラインに沿って、「幅」の概念を含んでいること、ドイツでは、比較対象取引が見いだせない場合を包括して移転価格税制を再構成していると位置付ける。最後に、OECD改定案では最適方法ルールを採用するために「幅」の概念を導入しており、我が国においても改定案に従い最適方法ルールを採用すべきであるとし、我が国において「幅」の概念を採用する場合には、価格に限定されない広い概念に近づけること、基本三法ではすべての結果からなる幅を認め、取引単位利益法では差異の概念が「利益率に影響を及ぼすことが客観的に明らかであるものに限る」ことを示した上で、狭められた幅を適用することが適切であると主張する。

 我が国の独立企業間価格の算定において、事業再編における事業そのものや機能の移転等のように、我が国の移転価格税制制定時には想定されなかった形で独立企業原則を適用すべき場面が生じていることから、移転価格税制において「幅」の概念を導入する場合の議論は重要性を持つ。本論文は、米国の「幅」の概念が導入された経緯やOECDにおける「幅」の導入に伴い、OECD自体が従来の「価格」中心主義から大きく変貌し、価格以外の要素も対象とする傾向を明らかにし、各国の状況を踏まえたうえで明快に問題点の整理をしている。議論がやや広範にわたっているため、筆者の主張がやや弱く曖昧さが感じられること、欧文文献の扱いに難がみられるものの、丹念かつ客観的な分析から、我が国においても「幅」の概念を導入すべきであるという論旨は説得力をもち、この分野の資料的価値といった点からも高く評価できる。


論叢本文(税務大学校のホームページへリンク)(PDF)・・・・・・755KB


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