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井上 雅登 稿
「法人税法における無償取引課税の一考察
  ―課税の根拠と適用範囲を中心として―」

(専修大学大学院『神田学友会』 第49号 2011年9月)
(専修大学大学院 院生)

 本論文は、無償取引から益金が生じる旨規定する法人税法22条2項の立法趣旨と適用範囲を検証することを目的とし、更には、近年の商取引において観察される多様な無償・低額取引への具体的な適用可能性について、租税法律主義の原点に立ち返って同条の適用可能性の枠組みを確定しようとする狙いの論文である。

 そのため、まず第1章では先行研究を引用して無償取引の類型化を行い、各税法での取扱いの相違の横断的検証を行っている。次いで第2章では、無償取引に関する企業会計と法人税法の取扱いの違いを、22条2項と同条4項の立法史を中心に検証し、22条2項は未実現利益を実現させるみなし実現規定と位置付けている。そのような位置づけに基づき、第3章では学説・判例で多様に展開されている無償取引の課税根拠説を比較検証し、著者が適正所得課税説を採る理由を論証している。最後に第4章で、現代的な課題として、通達ベースで対応が規定されている寄付金認定のメルクマールの問題と、租税回避行為否認に22条2項の解釈論を用いた旺文社ホールディング事件評釈を行って、現行22条のカバーすべき領域については、その計算根拠規定としての基本的性格から一定の制約を設けざるを得ないことと、将来的には税法改正による立法的解決が望ましいことを論証している。

 本テーマは、税法学者のほとんどが法人税制の解釈論の最大のテーマとして取り扱ってきており、参考文献も多く独創性が発揮しにくい性格のものである。しかし、多様な立論を踏まえながらも、租税法律主義の観点から妥当な解釈論を導こうとする著者の問題提起は明確に示されており、その観点からの広範な判例・学説を適切に取捨選択して評価・分析を行っており、そのプロセスは論理的であって無駄がない。

 具体的に個々の論点を検証すると、(1)解釈上問題となる22条2項と4項の関係の検証が、会計基準の事実たる慣習との位置付けにより明確に整理されていること、(2)22条2項の無償取引規定が、実体的利益に対する課税を定めるものか擬制された利益に対する課税を定めるものかに関する諸学説の比較検証が丹念になされ、そのうえで著者の租税法律主義の位置づけの観点から後者学説を選択する論理過程がわかりやすく説明されていること、(3)22条2項の租税回避行為否認機能の検証に際しては、取引概念の解釈に関するオーブンシャホールディング事件評釈に代表されるように、租税法律主義の観点からの制限的解釈論が強調され検証の幅がやや狭いという問題点は見出されるものの、同条の適用範囲を検証するためのその他の判例検討は多岐にわたり行われていること、(4)通達・判例が22条2項の適用範囲との関係で展開してきた制限・拡張理論の分析を踏まえた解釈論の限界の指摘とそれに対する立法的解決の提言は、本論文を通じた著者の問題意識を明確に反映したものとなっていることから、本論文は奨励賞に値する優秀な修士論文と評価される。


論 文(PDF)・・・・・・571KB


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