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山代 脩一朗 稿
「保証債務の履行をめぐる課税上の問題に関する一考察
  ―所得税法64条2項の適用の可能性―」

(新潟大学大学院 院生)

 本論文は、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の求償権の行使不能にかかる非課税規定(所得の計算上なかったものとみなす)である所得税法62条2項の適用要件のうち、特に求償権の行使不能の判断基準を中心として考察したものである。

 筆者は、本規定の立法目的である納税者の救済のためにも、本特例は積極的に活用できるようにしなければならないとの考えに立つ。しかるに、現状においては本特例の適用が不可とされてしまうケースが多いことに問題意識を持ち、その原因が求償権の行使不能の判断基準が明確でないことにあると考え、その判断基準を裁判例から導き出そうと試みる。

 しかし、仮に判断基準を示したとしても、複雑多岐にわたる保証債務の事案に対して、債務不履行時という一時点をして求償権の行使不能の判断をすることの困難性に鑑み、実効性ある救済策として、制度面での対応の必要性を感じて、「課税の繰り延べ制度」の提言に至ったものである。

 それは、求償権を行使しても回収することができない可能性がある場合には、「譲渡益」を「繰越譲渡所得」として翌期以降に繰り延べ、債務不履行があった事業年度の翌期首から5年を経過する日まで様子をみて、求償権の行使の可能性を判断し、その時点で、所得税法64条2項を適用するか否かを判断するというものである。

 本論文は全4章で構成されている。まず、第1章で保証債務の履行をめぐる課税上の問題点について、所得税法64条2項の立法趣旨及び制度の概要の考察をおこなっている。第2章では、求償権行使不能の意義とその解釈について整理し、第3章において、訴訟事例から読み取れる求償権の行使不能の具体的判断基準について分析を行い、最後に第4章において、納税者の救済を実効性あるものとするためには、制度面での対応が必要であるとして、課税の繰り延べ制度を提言している。

 中小企業では、融資に際して代表取締役の個人保証を求められることが多く、その結果、保証債務の履行のために資産を売却せざるをえなくなる場合も少なくない。

 筆者は、求償権の行使不能の判断基準を債務不履行時という一時点に求めるのではなく、求償権の行使不能であるか否かの判断が微妙であるときは、その期の課税を繰り延べ、「繰越譲渡所得」として翌期首以降5年を経過する日まで課税を繰り延べ、その間に最終的に求償権が行使不能になるか否かを見極めればよいと主張している。

 論文のほぼ半分が裁判例の引用となってしまっている点は、論文構成として疑問なしとはしないが、判断が微妙であるときには、一定期間課税を繰り延べて、その間に求償権行使の可否を判断するとの課税の繰り延べ制度の導入に関する提言については、斬新な意見であり、納税者の救済と適正申告の両立を図るとの筆者の意欲が感じられるものであり評価できるものと考える。


論 文(PDF)・・・・・・455KB


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