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今村 隆 著
「課税訴訟における要件事実論」
(日本大学大学院法務研究科教授
 (公社)日本租税研究協会 平成23年7月刊)

 本書は民事訴訟法における要件事実論の考え方を課税訴訟の分野に持ち込み、同論で使われている手法によって具体的な租税事件についての裁判所の判断あるいは学説の当否につき、検討を試みたものである。 本書の構成は第1編の基礎編と、第2編の応用編からなり、前者においては要件事実の基礎的な用語や考え方から始めて、課税訴訟における要件事実論の基本的な考え方が紹介されている。そして、後者においては、所得税、法人税、相続税、消費税、加算税、国際課税の六つの分野毎に、最も代表的な判例となった事件のいくつかを俎上にあげ、要件事実論の実際の使い方が論じられている。即ち、まず、著者はいずれの事件についても、納税者と課税当局の双方の言い分を、設計図(ブロック・ダイヤグラム)を描くことで、請求原因、抗弁、再抗弁といった具合に整理、明確化し、事件の争点及び立証すべき事実を明らかにしている。そして、この設計図を基にして、当該事件における立証責任の所在や適用となった税法規定の課税要件をめぐる解釈上の問題についての考究が行われている。立証責任の分配については、著者は課税訴訟における立証責任の分配基準として通説となっている修正法律要件分類説の立場から、取り上げた事件における租税債権の発生要件、消滅要件を整理し、前者であれば国側に後者であれば納税者側に立証責任があるとしている。また、税法規定の課税要件をめぐる解釈上の問題については、法文上、課税要件が明定されてない場合であっても、設計図において抗弁、再抗弁として整理された項目の中から、規定の立法趣旨等を踏まえ課税要件を特定し、当該規定の課税根拠についての著者としての見解を明らかにしている。

 著者によると、要件事実論は事件の争点を明らかにする争点整理機能を有するだけでなく、課税要件が課税の根拠との関係でどのような意味を持つかを明らかにしてくれるという意味で課税要件等の解釈にあたっての基本的なツールとして役立つものであるとされており、こうした視角に立った著者の分析は、本書で取り上げられている主要な租税事件に対する裁判所の判断やそれをめぐる学説上の対立について、新たな決着の手懸りを提供してくれるものと評価できる。

 また、本書執筆の目的について、著者は訴訟事件に関わる裁判官、弁護士だけでなく、税務調査に関わる職員や企業担当者にも要件事実論を理解してもらうことを目指すとしているが、難解な事柄が図式化や平易な文章により、素人でも理解できるような工夫が随所にほどこされており、著者は上記目的の達成に成功していると言えよう。

 さらに、本書の検討では、租税法だけでなく民法、行政法、民事訴訟法等幅広い分野における著者の識見がいかんなく駆使されており、税務訴訟の国側責任者の立場におられた著者の租税実務に対する深い造詣と併せて、著者の判断の説得力をより強固なものとしている。

 いずれにせよ、本書は要件事実論を租税訴訟の分野において正面から取り上げた数少ない研究であり、まさにパイオニア的業績であると言っても過言でないであろう。


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