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大野裕之・林田 実 著
「株式税制の計量経済分析」

(東洋大学経済学部教授・北九州市立大学経済学部教授 
(株)勁草書房 平成24年1月刊)

 本書においては、有価証券取引税、株式譲渡益課税、配当課税等の株式関連税制が、我が国の市場における株式取引や投資家の株式投資行動にどのような影響を与えたかを様々なマイクロデータを用いて計量的に分析を行っている。具体的には、第1章では1996年および1999年の有価証券税の改正・廃止の株式取引高への影響、第2章では有価証券税および手数料を合わせた取引コストの株式取引高への影響、第3章で2003年の株式譲渡益課税の改正の個人投資家の株式取引への影響、第4章・第5章において配当課税と家計の株式投資行動の関係、第6章で有価証券取引税・株式譲渡益課税の株式収益率のボラティリティへの影響、第7章で税制の株式投資信託への影響につき分析を行っている。その結果、株式関連税制が株式取引や株式投資行動に影響を与えることを確認している。

 本書の「はじめに」でも言及されているように、我が国においては、金融税制を巡る様々な議論がなされながらも、データの制約等から、株式関連税制が現実の株式取引や株式投資に与える影響に関する実証分析がほとんどなされてこなかった。これに対し、欧米においては、マイクロデータを用いた計量経済学に基づいた実証研究が数多く行われ、分析の蓄積が進んでいる。実証分析が十分行われていない状況下では、金融税制のあり方につき根拠に基づく改革論議が行えるはずもなく、我が国において、この分野での本格的な実証研究が待たれるところであった。

 本書は、日本証券経済研究所・日本証券業教会等の協力で得た取引データ、アンケート調査の個票データ等の様々なマイクロデータを駆使しながら、有価証券取引税、株式譲渡益課税、配当課税等の株式関連税制が、我が国の市場における株式取引や投資家の株式投資行動にどのような影響を与えたかを分析しており、その意義はきわめて高い。また、分析においても最新の統計的手法を用いており、分析水準もきわめて高いものと考えられる。本書に収められた多くの論文は、内外の学術雑誌にレフェリーの審査の上、掲載されており、既に高い評価を受けたものである。

 本書の論理性および実証性はきわめて高く、また海外の既存の実証研究を踏まえた研究ではあるが、我が国のデータの制約から来る諸問題にも取り組んでおり、相応の独創性もある。総じて、本書の分析水準および意義ともきわめて高く、受賞に値するものと考える。

 リーマンショック後の金融危機を受けて、IMFやEUのような国際機関において、金融危機と税制の関係も活発に議論される中、株式関連税制の現実の取引や投資行動への影響に関する実証研究は、国際的にも関心が高まっている。今後、本書の分析を受けた、税制と金融取引に関するさらなる研究が期待される。


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