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泉 絢也 稿
「租税法と信託法の交錯―租税法上の信託の意義―」

(関東信越国税局課税第一部国税訟務官室国税実査官・
国士舘大学大学院院生)

 信託が行われた場合における課税物件たる所得の帰属について法人税法12条1項は定めを置いているが、「信託」概念について定義規定を法人税法自体は定めていない。相続税法も所得税法も信託について定義規定を置いていないところからすると、信託概念について租税法は、信託法上の「信託」の概念を当然の前提として受け入れ議論されてきたが、租税法と信託法の交錯領域における租税法律関係の法的安定性、さらには納税者の予測可能性に資することを目的として、租税法上の信託の意義を考察することが本論文の主題とされる。

 本論文は、以下の3章により構成されている。
  第1章 私法上の信託の意義
  第2章 租税法上の信託の意義
  第3章 信託類似の法律関係に対する租税法の信託課税関係規定の適用可能性

 信託という用語は多義的な概念であるが、信託法制定前においては、譲渡担保などの信託的行為こそが私法上の信託であると解されていた。信託法制定後においては、信託とは信託法上の信託を意味するとの理解が定着したものの、従来の信託と観念されてきた信託的行為と信託法上の信託の関係に関して、私法の判例は必ずしも両者を明確に区別するような判示をしていないと、筆者は指摘したうえで、租税法が信託概念は信託法上の信託概念を借用していると理解されてきたが、信託概念が定着した外延の明らかな概念ではないことを判例の動向を検証したうえで指摘している。

 信託を巡る私法領域における議論に鑑みると、①租税法上の信託の意義はいかなるものであるか、②仮に、租税法上の信託に信託類似の法律関係は含まれないとしても、形式と実質、要件と効果の両面において信託法上の信託に類似する信託類似の法律関係に対して、信託課税関係規定の適用はあり得るのか、といった疑問を提起し得るとして問題提起を第1章で行っている。

 租税法上の信託の射程は、信託法上の信託に限定されるのか、信託的行為にまで及ぶのか、について信託法上の信託の定義規定や立法趣旨、立法の沿革に検討を加え、租税法上の信託は信託法上の信託概念に限定されるとの結論を導出している。

 租税法律主義の原則が厳然と存在する租税法領域においては、要件面や効果面の類似性を強調したところで、かかる信託類似の法律関係に対して信託課税関係規定を(直接・類推)適用する余地を認めることは困難であるとの結論に至ったとしている。

 本論文は租税法の中心的な論点の一つである租税法と私法の関係および、私法上の概念を借用する場合の解釈の在り方、さらには、借用元でもその概念をめぐって解釈上の幅がある場合に、借用概念は借用元の意義に解すべきとしても、問題は借用元の概念の揺らぎについて問題提起をしている。

 私法上の概念を租税法が借用しているとされる借用概念の解釈については、住所概念の解釈の在り方がとわれた武富士事件に象徴されるように、租税法と私法の関係をいかに位置づけるかは、租税法上の大きな論点の一つとされる。この問題を正面から取り上げた本論文は、問題意識の明確性や論理性の点からも高く評価できよう。


論 文(PDF)・・・・・・1.07MB


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