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上野隆也 稿
「企業税務所得概念としての純資産増加説
 ―税務会計における所得概念の変遷と形成―」

(税理士/桃山学院大学大学院非常勤講師
国際会計研究学会『国際会計研究学会年報』2010年度
日本社会関連会計学会『社会関連会計研究』第23号)

 本論文の構成は次のようになっている。第1部では「欧米における所得概念の変遷と形成」において、第1章では「イギリス所得税制度の誕生と所得源泉説について、第2章では「ドイツにおける所得概念論争−その対立構造と所得源泉説−」について、第3章では「ドイツにおける純資産増加説の実務的発展」について、第4章ではアメリカにおける純資産増加説の展開」について述べている。第2部では「わが国における純資産増加説の現代的意義」において、第5章では、「わが国における純資産増加概念の形成と展開」について、第6章では「純資産増加説と企業会計における時価評価」について、第7章では「NPO法人の所得概念−純資産増加説アプローチの提案−」について、第8章では「課税所得の浸食化と純資産増加説−あるべき課税所得概念の提言−」について、終章では「本研究の結論」について述べている。

 第1部では欧米において築き上げられてきた課税所得概念を紹介している。第2部では第1部での欧米での課税所得概念を参考にしながら、わが国における課税所得概念の変遷を示しつつ、現在においての課税所得概念はどうなっているのか、そしてどうあるべきかを考察している。

 本論文の結論としては、現行法人税法では「課税所得」を明確に規定していないため、租税政策が適切であるか否かの判断が困難であるとの問題提起をしている。企業会計上の利益概念としては「純資産増加説」を採用していることが明らかであることから、企業会計における利益計算に対して第二次的計算としての性格をもつ税務会計における課税所得計算についても「純資産増加説」を採用しているということができ、従って、法人税法上のあるべき課税所得概念が「純資産増加説」であると述べている。そして、「純資産増加説」という明確なフレームワークたる企業税務所得概念を規定として織り込むことなしに、NPO法人に対する非課税措置や租税優遇措置など、適切な租税政策を判断することはできないとしてる。わが国における「あるべき課税所得概念」は、旧法人税基本通達および企業会計における概念フレームワークの中で明示されている「純資産増加説」であり、したがって、現行法人税法においても、「純資産増加説」における「純資産増加または減少」という明確な定義の復活が必要である、と述べている。

 税務会計の基本原則である課税公平の原則を満たすためには、各納税法人において真実なる課税所得の計算が保障されなければならない。それゆえ筆者の述べているように純財産増加説によって課税所得が計算されなければならないといえよう。筆者の述べているようにNPO法人と営利法人の課税の公平性を保つためには、収益事業以外の課税所得も純財産増加説によって捕捉されなければならないであろうし、また、租税特別措置法による効果を適正に捕捉するには純財産増加説によって課税所得を計算し、租税特別措置法が単なる利益助成である場合には、当然なこととして見直しも検討されよう。もっとも純財産増加説によってもたらされる所得が課税敵状であるか否かについては、十分な考察が必要であろうし、そのことも筆者は言及している。

 本論文は、税務会計の基本原則に戻って、課税所得は如何にして課税されるべきについて言及した労作といえる。


論 文(PDF)・・・・・・1.73MB


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