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寺嶋 理 稿
「日本の連結納税制度における適正な個別所得算出の意義に関する一考察」

(金沢大学大学院 院生)

 本稿はわが国連結納税制度導入の参考となったとされている米国連結納税制度を詳細に分析することを通じ、同制度のあり方を追求したものである。著者はまず、わが国の連結納税制度は連結グループを一つの納税単位とするsingle entity処理に基づく課税を行うが、同時にグループを構成する各法人に適正な個別所得算出を要請する制度であるとする。そして、特に、個別法人に対し適正所得算出を要請することにつき、必要性に疑義があるとの問題意識に立ち、この仕組みの原型でもある米国の連結納税制度につき検討を行う。その結果、米国の制度では、時価取引を前提とすることは必須ではなく、また、同制度には少数株主の存在や(少数株主は連結子会社の利益にのみ関心を持つため、個別法人たる連結子会社の適正所得の算出が必要。)、連結子会社が連結グループ加入前に計上していた損失をその法人の個別所得を限度に連結所得から控除することを認めるSRLY(Separate Return Limitation Year)ルールといった(個別所得の不適正な計算は同ルールの潜脱となる。)、適正な個別所得の計算が不可欠で、single entity処理では対処できない領域のあることを明らかにする。さらに、独立当事者基準による適正な個別所得の算出ルールを定めたIRC482条は、米国では国内取引も適用対象となるが、連結納税の場合、その適用領域はまさにこのsingle entity処理では対処できない部分ということになる。

 以上のような米国の連結納税制度と比較すると、我が国の制度は、少数株主の問題がなく、またSRLYルールのような連結の前後における納税者の同一性の維持という立法政策も採用しておらず、損失の持ち込みは個別所得を限度とする合理的な理由もないことから、個別所得計算が必要となる適用領域の存在は認められないことになる。さらには、IRC482条のような形式面で個別所得算出の適正化を図る規定も存在しない。こうしたことを踏まえれば、著者としては我が国の連結納税制度の在り方については、むしろ、行政の監視コストの低減や簡素化の観点にたち、個別所得算出の束縛のない制度の整備が必要であると考え、その前提のもとでの、single entity処理の一層の推進(例えば、譲渡損益調整資産の範囲を棚卸資産に拡大すること等)を提言している。

 我が国の連結納税制度は、連結納税を行う各連結法人間の取引においても、適正な個別所得算出を要求するが、著者は企業グループを一つの法人として課税するのであれば、グループとしての所得が正しく算出されていればそれで足りるはずとして、この個別所得算出規定の必要性の検証を行っている。著者によれば、関係会社間の取引を用いた所得振替に対する処方箋としては、取引毎に時価を擬制する「所得振替の防止」と、連結納税制度のように課税単位を広げる「課税単位の拡張」という二つの方法があり、我が国の現行の連結納税制度、さらにはその原型となった米国の連結納税制度はいずれも、「課税単位の拡張」を原則としつつも、「所得振替の防止」も並存する仕組みと捉えている。しかしながら、米国の連結納税制度は上記の二つの方法の適用領域が明確に区分され、「所得振替の防止」関連規定が連結納税制度の中に存在する根拠が明確であるのに、我が国の制度はその整理ができてなく、従って、「所得振替の防止」関連規定は不要という選択肢もありうるというのが著者の結論である。このように、著者の立論は大胆なものであるが、個別の論点につきかなり掘下げた検討を踏まえたものであり、それだけに説得力もある。

 また、連結納税制度のような複雑な仕組みに対する検討は往々にして個別の規定の分析に、没入してしまいがちであるが、著者のアプローチは、常に原理、原則に立ち戻るものであり、制度のあるべき姿の基本的な方向性を示すことに成功しているものと評価できる。


論 文(PDF)・・・・・・887KB


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