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中野伸也 稿
「相続税課税方式の今日的あり方」

(富士大学大学院 院生)

 本稿は、相続税の重要改正事項として、平成20年に成立した事業承継税制を端緒として検討の方向性が確認されながら、未だに改正が実現していない遺産取得課税方式に焦点を当て、現行の法定相続分をベースとしながら遺産課税方式にも配意した我が国独特の課税方式の問題点を実証的に分析して、その解決策としての遺産取得課税方式の妥当性を租税政策論の手法により論証しようとするものである。

 著者は、まず我が国相続税法の現行課税方式に至る立法史に関して、特にシャウプ税制のもとで誕生した遺産取得課税方式から法定相続分課税方式の導入に至る経緯を中心に丹念にリサーチを行っている。また、現行制度の問題点に関しては、平易なシミュレーションで税負担の公平が保たれていない状況を、法定相続人数に応じた基礎控除や税額計算過程が、いかに最終的な取得財産の価額の担税力を反映しないものとなっているかを論証しているが、その問題点と合わせて、事業承継税制の非承継者相続人の受けるメリットなども不公平の例として説明し、更には、連帯納税義務のあり方に関する最高裁判例の分析を通じて、手続法上の問題点をも提示している。

 なお、遺産取得課税方式への移行という立法的解決策の提言に当たっては、相続税廃止の方向に向かう一部の外国での税制改正の動向の批判的な検証を含めて、主要国の相続税課税方式の包括的なリサーチを行い、これらを参照して、生前贈与と相続間の累積的な課税方式の採用を推奨している。

 相続税の課税根拠のリサーチから始まり、現行法が法定相続分に基づく税額計算に依拠するハイブリッド方式であるが故の諸課題を、シミュレーションモデルや我が国事業承継税制と連帯納付義務との関連性も含めて網羅的に分析し指摘している点は、実証的かつ多角的手法であり、租税政策論の論文として高いレベルを有しているといえよう。

 なお、著者の課題解決に向けての外国税制の検証においては、いずれも2次文献を参照しており、原典に当たっていないという課題はあるもの、参照資料の多様性と的確性はその欠点を補っている。また、本格的な遺産取得課税方式とへの移行と贈与税との累積的課税の実現に向けた提言においては、多くの先行研究の提言をも踏まえながら、相続税廃止の方向に向かうのではなく所得税の補完税としての独自の性格を残しながら遺産取得課税方式を政策の選択肢とすべきことを、我が国の少子高齢化社会のもとでの格差是正の必要性を強調して、著者なりに丁寧に論証している。

 本論文は、参照文献が広範に渉猟されており、論理性、実証性、独創性のいずれも一定の水準に達したレベルの高い力作といえよう。


論 文(PDF)・・・・・・1.88MB


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