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茂木裕晃 稿
「移転価格税制に係る一考察
 ―クロス・ボーダーでの事業再編を中心として―」

(国士舘大学大学院 院生)

 本論文は、移転価格税制とクロスボーダーの事業再編の関係を考察している。まずOECDガイドラインにおける事業再編関連の取扱いを詳細に見た後、米国およびドイツでの取扱いについても概観している。その上で、我が国の移転価格税制上の事業再編の取扱いを考察した上、いくつかの点につき現行税制では対応できないことを指摘する。その過程では、事業再編という観点からのアドビ事件についての考察もなされている。最後に、事業再編に対し、現行移転価格税制では対応に不備がある点につき、どのような対応が必要かを提案している。具体的には、我が国は国内法について、取引概念・資産概念・所有概念の定義、譲渡と使用許諾の識別及び新しい独立企業間価格算定方法に関する規定を整備する必要があること、国際的な二重課税排除のため、租税条約において事業再編につき具体的な取扱いにつき、相手国と合意する必要があること、また移転価格文書化義務を定める規定を導入する必要があること等を提案している。

 本論文は、移転価格税制とクロスボーダーの事業再編という今後、重要になっていくテーマにつき分析を行っており、同分野での我が国における論考が限られるだけに、その意義はきわめて高い。また、言及されている内外の文献も非常に幅広く、評価できる。また、関係者の間で注目を集めたアドビ事件につき、事業再編の立場から分析を行っている点も興味深い。最終的に、移転価格税制とクロスボーダーの事業再編の分野における我が国における対策を提案しており、今後の議論につながるものとして有用である。

 他方、広範なサーベイと比較して、独自の考察が十分深いものかは若干の疑念がある。また、企業の事業再編の手法としては、合併・会社分割、事業買収・売却、資産買収・売却、単なるアウトソーシング等、様々な手法がある中、移転価格税制でカバーすべき範囲はどこまでなのかといった点については深く考察しておらず、不満が残る。また、本稿では、取引概念、資産概念等の基礎的事項も検討しているが、それらは、租税法全体に関わる事項であるが、それを認識して総合的な検討が行われているとも認めがたい。

 そうした問題点もあるにせよ、本稿は120ページを超える大作であり、広範囲のサーベイを行っている点で、実証性は高い。また論文としてのまとまりもあり、論理的な内容となっている。さらに、本稿のトピックは、移転価格税制とクロスボーダーの事業再編という、今後、重要になることが予想されながらも、我が国における先行研究が少ない分野の研究で、トピック自体が独創性のあるものであり、評価できる。これらを総合的に判断すれば、本稿は受賞に値する論文と考える。


論 文(PDF)・・・・・・1.54MB


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