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西川 昌孝 稿
「信託税制に関する一考察
   ―いわゆる事業信託における課税上の問題について―」
(東京国税局品川税務署酒類指導官/筑波大学大学院 院生)

 本論文は、信託税制に係る制度上の問題点、すなわち信託の仕組みを利用して事業を行う事業信託が、法人課税の適用を受けず、法人税が逸脱する問題を指摘して、その解決策を提言することを目的とした研究である。

 本論文は、まず、第1章において平成18年の信託法改正に基づく信託制度を明らかにし、第2章においては事業信託の仕組みに関して事業信託の定義と機能を概説した上で事業としての信託の実態を明らかにするとともに事業信託の活用例を説明している。信託制度および事業信託に関する制度上および実務上の検討を踏まえて、第3章においては平成18年信託法により改正制された平成19年信託税制の5区分「受益者等課税信託」「集団投資信託」「法人課税信託」「退職年金等信託」「特定公益信託等」についてそれぞれの区分における課税の取り扱いを明らかにするとともに、本論文の検討対象である事業信託課税に関連して法人課税信託の規定の詳細を吟味している。次に、第4章では事業信託が法人課税信託の規定の適用を受けず法人税課税を逸脱するという事業信託における課税上の問題点を考察している。かかる問題点の解決を図るために、第5章において米国の事業信託課税を取り上げ米国での事業信託の歴史的経緯や活用状況ならびに課税の変遷を裏付ける判例研究を行い日本における事業信託税制の問題点を解決するための検討を行っている。最後に、第6章では事業信託は営利を追求することを目的とするものであるから、他の事業体との課税の公平性および納税者の予見可能性という観点から法人課税信託として法人税が課されるべきであると結論づけ、事業目的に着目した規定の創設を提案している。

 以上の論文の概要から知られるように、本論文の着想は、事業信託が現行信託税制の下では法人課税信託として受託者段階での課税の適用を受けず受益者等課税信託として受益者段階で課税の適用を受けることで、法人税課税の逸脱を招く結果となり、このことが課税の公平性を侵害しているということにある。本論文は、そのような研究動機に基づいて、日本における現行制度(平成18年信託法、平成19年信託税制)の規定を丹念に検証し、事業信託課税の税制上の問題点を解明し、その問題の解決策を見出すために米国の事業信託の歴史的経緯や活用状況ならびに事業信託課税に関する判例の検討を行っている。その意味で、本論文は、論理性と実証性に富むすぐれた研究であると評価できる。さらに、本論文はその結論として事業遂行という実態に着目してその事業収益に対して法人税が課税される法人課税信託に統一すべきであることを主張している。とりわけ、事業の判断要素、すなわち、そこで重視される受託者等の権限内容等に注意した規定が必要であり、事業信託と他の事業体を利用する場合の不利益の可能性については別途その解消措置を講ずることで、事業信託への受託者段階での課税つまりその事業収益に法人税を課税することが妥当であると結論づけることは極めて独創的な視点を提示するものとして本論文を高く評価することができるものである。


論 文(PDF)・・・・・・493KB


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