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赤木 葉子 稿
「所得税法上の医療費控除に関する一考察」
(専修大学大学院 院生)

 本論文では、医療費控除が、納税者の「納税のために処分しうる所得」を反映するための控除として機能しているか否か、租税法律主義の視点から検討を加えている。本論文の構成は以下の通りである。

 第1章では、所得税法における所得控除制度の存在意義を明確にするため、所得税法の特色を確認し、立法に当たって考慮された基礎概念としての応能負担原則を踏まえて、所得税法における所得控除の位置づけを検討している。第2章では、医療費控除規定の趣旨を明確にした上で、法令が控除の対象として想定している範囲と「緩和通達」により広げられた範囲を明らかにし、緩和通達により運用がなされる医療費控除制度の問題点を指摘している。第3章では、医療費の範囲を巡る裁判例の動向を整理し、具体的問題から緩和通達による運用の実態を明らかにしている。第4章では、居宅サービスの対価に係る裁判例から、創設以後60年以上経ちながら、大きな改正が行われず存在する医療費控除規定に、「介護」の問題を取り込むことには法解釈の限界があることを指摘し、立法による対応の必要性を提示している。

 本論文では次の3点の結論が導き出されている。

 1点目は、医療費控除規定の解釈による限界を指摘し、「治療」概念を基本とする医療費控除規定に必ずしも治療を前提としない「介護」概念を組み込んでいくことには限界がある。2点目は、緩和通達により租税法実務が支配されていることが明らかであり、その結果として公平性が歪められ、担税力に応じた課税が担保されていない。

3点目は、緩和通達による運用は、租税法律主義の視点から否定されるものであるから、最終的には立法による対応が求められる。

 本論文では、緩和通達は納税者に有利な取り扱いであるものの、法の根拠に欠けていることから、法令にしか拘束されない裁判所では納税者に厳しい判断が下されており、運用の場面で広げられた適用範囲が、救済の場面では限定的に解される実態を明らかにしている。医療サービスが複雑化すると共に新しい医療サービスも出現していることから、医療現場に法令が追いつかず、とりあえず個別通達で対応していくという姿勢がこのような現状となって表れていることを浮き彫りにした。筆者の述べているように緩和通達で納税者に有利であるがという点が悩ましいが、裁判所での救済が厳しいことについては、租税法律主義の観点から、法令での整備を前向きに検討していく必要があろう。また通達が複雑化することは、それを利用しての租税回避のために医療行為を選択するということも往々にあろうから、健全な医療実務を阻害することのないように、課税の中立性に十分配慮しながら、医療費控除における法令と通達の内容を再構築していく必要があろう。また、筆者は近年における「介護」サービスの現状を示し、医療控除と障害者控除から「介護」の部分を切り離して、「介護控除」の新設を提言し、今後の検討課題と位置づけており、「介護」問題を含めた全体の医療費控除制度の再構築を求めている。

 本論文は、医療費控除という身近な所得控除を取り上げ、医療実務に十分配慮した法令と通達のあり方について検討され、また、「介護」サービスの急増に当たり、介護控除の創設という提言もしており、その内容は現状を十分に認識した優れた内容となっている。医療費控除における従来の議論や裁判例を丁寧にフォロー、整理し、さらに文献、資料にも十分に当たっていることも付け加えておく。


論 文(PDF)・・・・・・904KB


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