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海老原 宏美 稿
「独立企業原則の限界と修正―アドビ事件を題材として―」
(日本大学大学院 院生)

 本論文は、移転価格税制の適用に当たって、当局の比較対象取引選定を不適切として納税者勝訴の結論に導いたアドビ事件東京高裁判決を分析することにより、現行法の仕組及びその解釈が、同税制の基幹をなす独立企業原則の適切な適用を妨げている点があるのではないかとの著者の問題意識を出発点としている。そして、独立企業原則の再検討の過程では、租税条約上のルールとしての歴史的沿革の検証から始めて、その後の米国判例や米国の立法史を分析し、米国の変遷に倣って我が国においても、移転価格税制の解釈・適用上、利益法への傾斜を強めるべきと提言するものである。

 まず第1章でのアドビ事件判決評価では、判決の論旨をやむを得ないものとしつつも、そのままでは多国籍企業の事業再編行為が再編対象企業所在地国にもたらす潜在的な税収減というリスクに対し、適切な処方箋を提示していないとしている。すなわち、契約関係を重視しすぎる現行法の解釈方法に従うと、法的なリスク配分を契約条項に沿って個々に検証するため、比較対象取引の選定に制約があり、経済的な実質を軽視しがちである点を指摘している。2010年OECDガイドラインや米国482条が取り入れた利益法への傾斜の考え方が、我が国の進むべき方向性を暗示していると指摘しつつ、現行法はなお、独立企業原則の事業再編に対する適応力を十分には保障していないとしている。

 2章から4章では、その観点から、独立企業原則発祥の地である米国における判例及び立法史を丹念に検証している。そして、5章で多国籍企業の独自の無形資産の内部移転等を活用する事業運営に対しては、比較対象取引の追及には限界があり、その場合の利益法適用を残余利益分割法によって行うべきと提言している。その観点から、残余利益分割法を根拠づけている我が国現行法もアドビ事件判決のようなケースで適用すべき方法として推奨している。

 本論文のテーマは、近年幅広い研究者の研究対象とされてきており、前半部分に関する先行研究も豊富に行われている。著者も、それらを参照しているが、単に本邦研究者が消化して紹介したもののみならず、英文文献に直接あたって検証を行っており、問題意識の高さがうかがわれる。特にフォーミュラ方式についてのAvi-yonahの論文など、重要性の高い外国論文も参照するなど、論点の展開に必要なパーツをしっかりと押さえている。結論部分では、我が国現行法の解釈の限界についての検証が十分行われているとはいえず、また、2010年ガイドライン以後のOECDでの重要な検討状況の推移についての参照がないという物足りなさは残る。しかし、論文全体を通してみれば、豊富な先行研究を網羅している点、及びそれらを自己の問題意識とリンクさせた論旨の適切な進め方などの点において、優秀な奨励賞対象論文と評価される。


論 文(PDF)・・・・・・564KB


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