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九之池 榮一 稿
「わが国の相続税の現状と課題―土地評価を中心として―」
(関西大学大学院 院生)

 本論文は、相続税における土地評価方式がもたらす相続税の租税回避のリスクに関する問題点を、バブル期のいわゆる「3年しばり規定」(相続開始前3年以内に土地を取得した場合、その取得価額を相続税の課税価額とする旧・租特法69条の4の規定)の適用を巡る判例を中心に検証したものである。著者は、所得税における譲渡所得算定上の取得価格と相続税の評価価額の相違こそ、不当な租税計画を可能にする元凶であると主張する。そして、現行法の下では、相続財産を相続人が事後に譲渡した際の譲渡所得の中には、経済実質的にみると、被相続人の清算所得(被相続人の保有期間の値上り益)と相続人の譲渡所得(相続人の保有期間に対応する値上り益)が混在しているが故の問題点を指摘し、最終的には、立法論として、相続に際しての清算所得課税の導入による解決を提言している。

 まず、本論文は、所得課税と資産課税の相関関係をも対象テーマとしているがゆえに、1〜2章で、我が国相続税の沿革と土地評価の問題状況を、税制のみならず著者の身近な土地物件を材料として、適用のシミュレーションを行い明らかにしている。次に3章で、3年しばり規定について、課税庁が敗訴した大阪地裁判決の分析を行い、租特での対応の限界を指摘している。著者は、あくまでも土地評価の優遇措置を利用した不当な租税計画について、解釈上及び立法上の処方箋が必要との観点に立っており、そこで、4章において、相続税制の問題だけでなく、被相続人保有期間に係る値上り益について清算所得課税をしないで被相続人の取得価額を引き継ぐとしている譲渡所得課税制度こそが、むしろ土地相続に係る租税回避行為を生み出す元凶であるとの判断を下している。

 テーマ及びそれへのアクセス方法は、修士論文等では頻繁に取り上げられる課題であるため、本論文の評価は、もっぱら検証対象の充実度如何によることとなる。その点、本論文は、制度の沿革のリサーチと関連情報の集約、及び課税帰結のシミュレーションなどにより、独自の脚色が施されており、また、判例分析も丁寧に行われている。ただし、立法論と解釈論が厳密に区別されず議論されている点や、立法論において当然参照されるべき海外税制との比較法検証が行なわれていないこと、さらにはみなし譲渡における繰延効果の分析が不十分である点、など改善すべきはいくつか指摘されうる。しかし、論文を全体的にみれば、土地に関する各種データの集積活用や現行法の立法過程の詳細な検証などの点で、一定の独自の手法もうかがえ、奨励賞対象にふさわしい力作と評価される。


論 文(PDF)・・・・・・1.67MB


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