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成澤 智絵 稿
「租税法における信義則
   ―納税者と税務当局との安定した関係に向けて―」
(日本大学大学院 院生)

 信義則の租税法領域における適用の可否については、租税法律主義の合法性の原理の制約を受けることになるが、過度に合法性の原理を優先させると、納税者の租税行政庁に対する信頼が損なわれる。このような問題意識の下に、本論文は、信義則の租税法分野への適用をめぐる論点について考察するとともに、信義則不適用の場合の納税者配慮策や納税者と税務当局の信頼関係維持のための解決策を提言したものである。

 第1章では、信義則および禁反言の法理の意義について整理した上で、民法における信義則、信義則の公法への適用、合法性の原則との関連性を含めた租税法律主義と信義則の関係について概観している。第2章では、信義則の諸論点に関する戦前から現在までのわが国の判例および学説の動向を4つの時代区分に分けて整理分析し、昭和62年10月30日最高裁判決以降、租税事件に信義則を適用しうる事例はきわめて例外的なものに限定されるようになったことを明らかにしている。

 これを受けて、信義則が適用されない場合に納税者の権利をいかにして保護するかという問題を、納税者の権利保護の必要性という視点から取り上げている。第3章では、税務相談での職員の回答や文書回答手続による回答等、各種の税務当局の見解が公的見解に該当するか否か、納税者の保護・救済の対象となりうるものかについて検討している。第4章では、諸外国のアドバンス・ルーリング制度の内容を確認し、わが国の文書回答手続との比較を行っている。第5章では、結論として、租税法における信義則適用とその適用要件吟味の際の論点についてさらに考察を加え、公的見解の表示要件に関する提言を試みるとともに、信義則が適用されない場合の納税者への配慮に関する提言や納税者と税務当局との安定した関係維持のための提言を試みている。

 以上のように、本論文は、学説および判例を丹念に分析し、論点を的確に整理した上で、それらに基づいてさまざまな具体的な提言を試みているが、その論理展開はきわめて明快であり、説得力がある。また、本論文には、信義則の適用要件の明確化や「事実問題に関する合意」の導入など、興味深い提言も含まれており、バランスの取れた完成度の高い修士論文であり、租税資料館奨励賞に相応しい作品として評価することができよう。


論 文(PDF)・・・・・・696KB


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