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諸富 徹 著
「私たちはなぜ税金を納めるのか―租税の経済思想史―」

(京都大学大学院経済学研究科教授)
(株)新潮社 平成25年5月

 本書は、過去400年にわたる世界の税制とそれを支える租税思想の歴史をたどりながら、税とは何か、国家とは何か、資本主義とは何かを考え、また21世紀においてどのような税制が必要となるかを展望した啓蒙書である。

 第1章「近代は租税から始まった」では、17世紀市民革命期のイギリスにおいて、戦争により国家財政が逼迫して租税財源に頼れば頼るほど、国王と議会の対立は深まり、「国王は議会の同意なしに課税しない」という条項が権利宣言に盛り込まれるに至った推移が描かれている。また、ホッブズやロックが、「租税とは、国家が市民に提供する生命と財産の保護に対する対価である」として、社会契約論に基づく国家論を樹立するとともに、近代国家における租税に正当性を付与したことも指摘されている。

 第2章「国家にとって租税とは何か」では、19世紀ドイツにおいて、有機的国家観に基づき、租税をたんに国家の財源調達手段としてだけでなく、社会政策を実施するための手段としても捉えた点が強調されている。第3章「公平な課税を求めて」では、19世紀アメリカおいて、ドイツのように所得税が社会改革を上から実施するための政策手段として国家主導で導入されるのではなく、所得の多寡に応じてより公平な税負担を求める下からの社会運動によって、そして政党を通じて実現していった経緯が描き出されている。

 第4章「大恐慌の後で」では、当時のアメリカ経済の実情を踏まえて、反独占、富の再配分、経済再建という3つの課題を解決するための政策として行なわれたニューディール税制改革が取り上げられている。第5章「世界税制史の一里塚」では、実需取引を遙かに超えて行われている投機取引、とりわけ高頻度取引を抑制するために導入されようとしているEUの金融取引税が紹介されている。第6章「近未来の税制」では、国境を超えて行われる多国籍企業の租税回避行動に対処するために、グローバルタックスの構想が展開されている。

 以上のように、本書では、それぞれの章で豊富な話題を織り込みながら租税の経済思想史が見事に描き出されている。一つの章で出された疑問が次章での考察につながっており、あたかも謎解きを楽しむ趣もある。また、随所において筆者の見解を明確にする努力も払われている。本書は、たんなる啓蒙書の枠を超えて租税論の基本書として、税の専門家を目指す若い学徒にぜひ読んでもらいたい好著であり、租税資料館賞に相応しい作品と評価することができよう。


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