公益財団法人租税資料館


トップページ>>租税資料館賞>>第23回入賞作品>>「消費税の課税に関する一考察」
戻る 次へ

金原俊輔 稿
「消費税の課税に関する一考察
 ―社会保険診療に対する非課税措置といわゆる「損税」について―」
(千葉商科大学大学院 院生)

 本稿で筆者は、非課税取引を行った事業者が制度上負担せざるを得ない課税仕入れに係る消費税額を「損税」と名付け、そのような損税が社会保険診療を行う医療機関にどのような影響を与え、問題が生じるかを明らかにしようとする。わが国の消費税制度と診療報酬制度の概要や消費税導入過程で社会保険診療が消費税法上非課税とされた経緯などを紹介・検討した上で、筆者は、社会診療報酬制度においては「実質的に損税分を最終消費者に負担させる状況を作ることができない」仕組みが働くことを指摘する。それと共に、最近の動きとして筆者は、「社会保険・税一体改革大綱」や中医協の専門組織である「医療機関等における消費税負担に関する分科会」発足の経緯と、分科会での議論の状況を紹介する。併せて、社会保険診療に携わる医療機関(民間病院)の開設者により提起された社会保険診療等に係る仕入税額控除を認めないことの違憲性が問われた神戸地裁判決を紹介し、判決の判断は妥当であるとしながらも、損税問題については立法で何らかの対策をとる必要があることを指摘する。付加価値税を導入しているわが国以外の国では医療サービスに対する課税上の取り扱いがどうなっているのかを検討した上で、筆者は損税解決のための具体策を模索し、「ゼロ税率」の導入を提言する。この論文の特色は、まずは丁寧に論点を拾い上げ、制度と議論の過程を追っていく慎重な態度に見られよう。

 現行制度の下で、社会保険診療等は非課税取引されているため、社会保険診療等に携わった医療機関の場合は、医療機器や消耗品・医薬品等の購入に際して仕入先に消費税を支払いつつも患者や審査支払機関からは消費税額相当額の支払いを求め得ない。筆者は、そのことの不都合さ(「損税」の存在)を指摘し、その解決策を探ろうとする。具体的には、社会的弱者保護のため社会保険診療を非課税とした趣旨を活かしながらも、制度上選択の余地が限られてしまっている医療機関の一方的な税負担を解消するには、いくつかの解決策が考えられるが、その中ではゼロ税率の採用が最も適切であるとする。さらに、ゼロ税率採用の弊害を考慮し、筆者はゼロ税率の適用対象事業者を、輸出業者、社会保険診療を行う医療機関、それに介護事業者の三者に限定すべきであると主張する。

 筆者の主張は明確で、論旨も一貫している。主張を裏付けるための資料分析作業をキチンと行っているので、その論じる内容により説得力を与える結果ともなっている。これまでの経緯と背景を十分に踏まえた上で、具体的な根拠に基づき今後の見通しを含めた将来的提言を行っているため、その議論には迫力がある。もっとも、消費税法上の非課税取引をめぐる「損税」問題は、社会保険診療報酬に限られた問題ではない。輸出免税・医療・介護以外のケースでも消費税におけるゼロ税率の適用を検討する余地もあろうし、「政策上」非課税とされてきた他の事例(埋葬料や教育費、居住用家屋の賃貸など)との比較検討なども必要であろう。その意味では、論者の議論をさらに展開する可能性を秘めていると同時に、そのような作業を期待させ、予感させる好論文である。


論 文(PDF)・・・・・・1.02MB


戻る 次へ




Copyright (c) SOZEISHIRYOKAN. All Rights Reserved.