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西浦真平 稿
「信託を利用した証券化と課税―複層化された受益権につき
              pass-through debt certificatesを参考に―」
(関西大学会計専門職大学院院生)

 本論文は信託を利用した証券化において、信託受益権が優先劣後等に複層化された場合の課税上の問題について考察を行ったものである。我が国の税法上、信託受益権は有価証券に該当し、受益権保有者は信託財産を有するものと見做して扱われている。しかしながら、証券化において、受益権が複層化された場合、その権利内容に違いが生じ、受益証券を保有する者であっても、信託財産から生じる所得を帰属させることが適切でない者が含まれる虞があると考えられる。本論文では、こうした問題について、まず、我が国の現状につき、税法上の取り扱い、さらには複層化された受益権が問題となった裁判例を検証し、信託受益権に関しては、受益者に、信託財産を有する者とみなして、所得を帰属させるべきという条文しかなく、受益権の複層化に対する個別規定が未整備であることを明らかにする。そして、問題解決のためには立法的解決が望ましいとして、その手懸かりを、債券を裏付けとした証券化の発祥の地でもある米国における課税上の取り扱いに求めている。著者は、米国の証券化に対する課税の沿革をフオローし、米国では、信託が発行する受益証券のうち、一部を信託受益権としてではなく、税法上債券として取り扱うことがわかったとしている。つまり、米国では、債権の証券化において、優先劣後等に受益権が複層化されるが、その場合、金融機関が引き続き保有する受益証券と、投資家に売却される受益証券に二分され、投資家の保有する受益証券は信託受益権という私法上の形式にかかわらず、税法上は債券として性質決定されている。ただ、米国においても受益証券が債券として区分される際には、私法上の法形式を重視し、投資家が信託財産を直接保有するという考え方と、経済的実質を重視し、投資家が債券の発行体に対し資金を貸し付けているという考え方があり、更に、受益証券が経済的実質を重視し、債券として性質決定されるためには、それが一般的な債券と経済的性質において類似しており、しかも信託財産との関係が断絶しているものであることが必要となるとしている。

 筆者としては、こうした米国における受益証券に対する税務上の取扱いについての検討結果を踏まえ、現行の法人税法2条21号の定義規定とは別に、債券として性質決定すべき信託受益権の定義を別に定めることを提言する。その具体的な内容について、筆者は実際にどのように受益権の定義を置くかについてはさらに検討を要するとしつつも、考え方としては、私法上の法形式を重視して受益証券を債券として性質決定すべき場合(例えば、住宅ローン債権のように期間が長く固定的な債権を証券化する場合)であれば、優先受益権を保有する投資家等が信託財産から生じる所得を帰属させるべき受益者となり、一方で経済的実質を重視して受益証券を債券として性質決定すべき場合(例えば、クレジットカード債権のように期間が短く流動的な債権を証券化する場合)であれば、劣後受益権を保有する金融機関を受益者として扱い、信託財産から生じる所得を帰属させるような取扱にすることが適切であると結論付けている。

 信託を利用した債権の証券化は我が国において近年、急速に普及しつつある新たな金融技術であり、本論分で筆者が指摘しているように、そうした新たな取引における課税上の問題については、制度の整備が追いついていないのが現状である。このような問題に積極的に取り組む筆者の姿勢はまずもって評価できよう。また、筆者は、判例の検討、先行研究、更には米国の制度の検討のいずれにおいても、筆者の一貫した、かつ明確な問題意識のもとに考察を重ねてきており、その論旨の展開は説得的である。なお、米国の制度の検討が基本的には一次資料であることも論文のレベルがかなりのものであることを裏付けることとなっている。


論 文(PDF)・・・・・・787KB


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