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山本直毅 稿
「譲渡所得課税における所得の認識基準に関する研究
 ―課税のタイミングを中心に―」
(専修大学大学院院生)

 本論文は、所得税法33条の譲渡所得における所得の認識基準の特徴を検証し、いわゆる増加益清算課税説に立って、みなし譲渡所得条項を含めた譲渡所得の実現のタイミングを検証するものである。そして、実現のタイミングに関する、(1)我が国学説のとりまとめと、(2)限界的な事例における判例の検証を行ったうえで、最後に米国内国歳入法の実現・認識の2段階基準を検証して、我が国の譲渡所得の実現タイミングも米国同様、法律で規定する方向で立法的解決を図るべきであると提案している。

 論文はオーソドックスな構成で、まず第1章では、所得税法の譲渡所得条項の構成を紹介し、その解釈に当たって通説である増加益清算課税説を支持するとともに、対立概念である譲渡益所得説がある旨も紹介している。第2章では、みなし譲渡課税制度を中心に増加益清算課税制度の学説の理論的背景のリサーチを行い、併せて、榎本家事件や名古屋医師財産分与事件など譲渡所得課税に関する代表的な判例分析を行っている。そして第3章で、代表的な先行研究を参照しながら米国の譲渡所得課税のタイミングが、実現と認識という2段階で明示的に説明されている点に注目し紹介している。

 最後に、第4章及び結論で、我が国の実現のタイミングについての実定法上のガイダンスの不十分さを指摘し、米国法制を参照した実現・認識の2段階を法律で明示するという立法的解決を提唱している。

 本論文のテーマは豊富な先行研究がすでにある領域であり、著者の問題意識もそれら先行研究での問題意識に沿ったものとなっているため、論旨の展開にやや独自性が欠ける点は否めない。また、代表的な実現概念の整理の過程で、所得税法33条と同59条の関連を議論する際に同36条(収入金額条項)との関連が十分議論されていない点や、課税繰延の定義の不明確さなど、実定法の解釈論に丁寧さが不足していると思われる点も目につく。

 しかし、著者の研究に向けた熱意とそのために惜しむことのないリサーチ能力は、膨大な主要先行研究と代表的な判例を網羅的に紹介・分析している点で十分に明らかにされている。また、米国制度調査が翻訳文献に頼っているという問題はあるものの、日米の制度比較を丹念に行なって、その中から自らの問題意識の解決策のヒントを取り出すという実証的な検証方法も論理的である。加えて、引用論文の参照方法など論文としての基本構造もしっかりしている。従って、本論文を全体としてみれば、修士論文として必要とされる実証分析を伴った労を惜しまない真摯な研究であると認められ、租税資料館奨励賞のレベルに達した論文と認められる。


論 文(PDF)・・・・・・1.11MB


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