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居波 邦泰 著
『国際的な課税権の確保と税源浸食への対応
 ―国際的な二重非課税に係る国際課税原則の再考―』
(国税庁 税務大学校 研究部教育官)
平成26年7月 (株)中央経済社

 本書は、『国際的な課税権の確保と税源浸食への対応一国際的二重不課税に係る国際課税原則の再考一』と題する博士の学位申請論文を中核にして、現在進行中のG20/OECDのBEPSプロジェクトの行動計画の各行動を詳細に検討し、我が国のBEPS対応に関する考察を加えたものである。具体的には以下の通り8章より構成されている。

 第1章 国際的事業再編による所得の国外流出に係る課税上の問題
 第2章 米国における所得の国外移転に係る課税問題への対応
 第3章 ドイツにおける所得の国外移転に係る課税問題への対応
 第4章 インドにおける源泉地国としての課税権の確保
 第5章 税源浸食によるタックス・ヘイブンの利用とOECDの対応
 第6章 課税権の確保と独立企業原則の限界-
 第7章 国際課税原則とOECDの税源浸食と利益移転の取組み
 第8章 税源浸食と利益移転への対応策一国際的二重非課税への対処

 第1章から第6章までで、国際的事業再編による無形資産の国外移転に焦点を当てて国際的事業再編による税源浸食が合法的に行われるメカニズムを検討した結果、独立企業原則には限界があり、現行の国際課税原則そのものにこのような合法的税源侵食のスキームを可能にする弱点を指摘している。第7章では、税源浸食の定義を試みたうえでOECDのBEPS報告書を検討している。第8章では、税源侵食問題に対する対応策を具体的に提示している。

 筆者は、本書により組織再編や所得の移転を通して合法的に行われる国際的な二重非課税による税源侵食の問題に詳細な分析を加え、その対応策をOECDのBEPS報告書の検討から抽出している。国税庁(税務大学校研究部)に在籍している利点を活かして、膨大な原資料を収集し、真摯に研究分析した研究成果が本書の随所に見られる。

 税大論叢に寄稿した研究成果が本書の中核をなしているが、税源浸食問題に対する立法的対応の必要性を意識しながら国際的なこの問題に対する取り組みを研究するものであり、問題意識の一貫性からか、各章間の内容は整合性が保持されている。

 従来から国際租税法の論点とされてきた多国籍企業が展開する国際的な所得移転(国際的租税回避)問題や最近の顕著な傾向ともいえる組織再編を利用した租税回避問題は、国家の税源浸食をもたらすものであり、我が国の国際的租税回避による税源浸食問題に早急に対応しなければならないとする、著者の問題意識は一貫しており、明確である。

 筆者は、合法的な国際的二重非課税に対する課税当局の対応策が、しっかりとした課税理論に基づく必要があること明確にしている点は特に評価できる。

 筆者は税源浸食に対する対応策の理論的バックボーンの構築のために、OECDがまとめたBEPS報告書への対応策を論じている。今後の我が国税源侵食を防止策に有益な方向性を示したものと評価できる。

 一方、課税当局の立場から論じるあまり、公平性と中立性の問題や公正性の確保といった租税原則に基く大局的な検討の視点が欠落している点が本書の課題といえよう。

 とはいえ、本書が真摯な研究に基く労作であるとの評価は不動である。よって租税資料館賞に値する研究成果と高く評価する。


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